夏休み

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夏休み

 翌朝、父さんが仕事から帰って来た。 「おおー2人とも大きくなったなー!」  父さんは連泊しているジェイクとハグしたあと、僕の方に向いた。僕は、やんわりとハグを(かわ)すと「ジェイクを送ってくる」と言って家を出た。 「相変わらずの距離感なんだな」 「なんかね」 「血縁なんて関係ないだろ。お前とお母さんを愛してくれたんだから」 「分かってるよ」  父さんが母さんと結婚して僕はアレックス・コールになった。資産を持った父さんと、子供を持った母さんとの結婚は、決して祝われてはいなかった。そして母さんが病気で亡くなった。  父さんも、執事のバトラーさんも、メイドのメイプルさんも、優しくしてくれた。僕を愛してくれた。それは感じていたけれど。でも僕は、あの家で独りぼっちになっていたんだ。そして全寮制の中学に進学した。ジェイクは全部知っていた。 「だったらさ。想い出になる前に、今の想いを形にしようぜ。俺はオリヴァーが、そう教えてくれた気がしてる」 「ああ。連絡くれて、ありがとう」  ジェイクと抱擁を交わして背中を見送ると、僕は家に帰った。 「父さん、ちょっといいかな」  食事を終えたタイミングで、僕は父さんの傍に座った。 「おお、どうした。楽しんでるかい」  笑った父さんの顔には、記憶よりもたくさんの皺が刻まれていた。それが愛の数のように感じた。 「実は、大学に編入学したいんだけど」 「ははは。あそこのレベルじゃアレックスには足りなかったか。希望の大学はあるのかい?」 「まだ分からない」 「だったらスコップランド警察に知人がいるから、そっちの大学はどうだい? 資料を集めておこう」  警察に知人がいるのは心強いと思えた。バイト代わりの探偵が本当にできるかもしれない。 「うん。ありがとう。それから」  僕は父さんにタイムカプセルに入れていた、からくり箱を渡した。 「ごめんなさい。母さんの形見。僕が隠していたんだ」  父さんが、からくり箱の表面を何度かスライドさせると蓋が開いた。その中から出てきたのは母さんの結婚指輪だった。 「良かった。アレックスが持っていたなら、それでいいさ」 「明日、母さんの所へ行きたい。父さんと」  母さんの死を受け入れられなかった僕は、墓参りをしたことがなかった。オリヴァーのおかげで、それを乗り越えられると思った。 「そうか。分かった、一緒に行こう」 「ありがとう父さん」  できる限り今までの「ごめんなさい」も込めたつもりだ。伝わる訳はないけれど。 「だったらアレックス」 「なに?」 「庭で星を眺めながら、もっと話でもしないかい」 「うん! 夏休みは、まだまだ終わらないからね!」 〈トライアングルおわり〉 
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