電話

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 蝉時雨とは、蝉の鳴き声を浴びて汗で濡れる事から言われた。 と僕は勝手に思った。そもそも僕は汗をかかない。今だって冷房設備を使わずに、風も吹き込まない窓を開け放って、蝉の声は暑苦しいなと思っただけだ。  夏休みは多くの寮生が帰省し学業を忘れ、一部の寮生が別荘で過ごしお酒を覚える。寮母のセシルさんの手調理が好きな僕は、どちらにも行かない。ただ溶けたチーズのように革張りのチェアーに貼り付いていた。  この辺りの地域じゃ高レベルな高校ではあったけれど、授業は単純だし、先生の質問は簡単だし、寄付金だけの生徒と話を合わせなきゃいけないし、うんざりだった。  だから何処かに刺激はないものかと、思考の現実逃避を繰り返していた。  部屋の電話がなって珍しいなと視線だけを向けた。いつも用がある時は、直接寮母さんが来るからだ。ズルズルとチェアーから降りると受話器を取った。 「はい」 「お電話ですよ」  セシルさんが外線と繋いでくれた。親から電話など来たことがないし、かけてくる相手に心当たりもなかった。 「はいコールです」 「アレックス? 久し振り」  僕をファーストネームで呼ぶ友人など1人しかいなかった。 「ジェイク? ジェイク、ラッセル!」  それは小学生時代を共にした、友人のジェイクだった。今は地元の町から、高校に通っているはずだ。 「いったい、どうしたんだい。珍しいじゃないか」 「うん。実は」  言い淀んでいるのか、ジェイクが間をあけた。 「オリヴァーを覚えてるか?」 「オリヴァー?」 「オリヴァー、ライトだよ」 「転校したオリヴァーか。中二の夏に事故にあった?」  小学校の卒業と同時に転校したオリヴァー。彼もまた、僕をファーストネームで呼ぶ1人だった。3年前。中2の夏に、事故で亡くなったと知らせが届いたきりだった。 「そう。そのオリヴァーから俺たちにメッセージが届いたんだ」 「はあ? それはいったい?」 「夏の夜空を探してくれって。とにかく、こっち帰って来れないか? 詳しい話はその時にでも。力を貸してくれ」  高2の夏に届いた、オリヴァーからのメッセージ。それがジェイクと僕の人生を決定づけた。
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