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木琴の森
今日1番長くなるだろう距離を走って、木琴の森に着いた。遊歩道や売店のある自然公園は、すでに森林浴を楽しむ人が多く訪れていた。
森の斜面に廃材で作られた、名前の由来となった木琴エリアは、劣化のため封鎖されていた。
「どんな曲だったか覚えてるアレックス?」
「うーん。なんか有名なクラッシック音楽じゃないか?」
売店で買ったドリンクを飲みながら、当時は木のボールのスタート地点だった高台に向かって歩き出した。
ジェイクが、うろ覚えで鼻歌を歌い出すと、僕も聞き覚えのある部分に合わせて歌った。徐々に合う場所が増えてきて、気付けば曲名もしらない僕らの鼻歌が森蔭に木霊していた。
高台には、ちゃんとした喫茶店があった。僕らは昼ごはんも兼ねて休憩することにした。
ジェイクはカバンから木のボールを取り出した。
「このボールと駆けっこしたな」
「した! した! 飛ぶように駆け降りるオリヴァー早かったー」
「一緒に来たかったな」
「そうだな……」
テーブルの上を転がった木のボールがグラスにあたり、氷がカラリと音をたてた。
「それで、夏の夜空は?」
「さあ?」
「いいかげん気付いてるんだろ。教えろよアレックス」
「残りは?」
テーブルに紙飛行機とキャップ火薬を置いたジェイクは、両手を広げて「これだ」とジェスチャーした。
「次は、これだ」
紙飛行機を手に取った僕を、ジェイクは頬杖をついて横目で見た。
「全然、見当がつかない」
僕は飛行機を広げると、それをジェイクの目の前でヒラヒラとさせた。
「これは、なーんだ」
「なにって紙」
「なんの紙」
「なんの紙? 和紙?」
「そう和紙。工場見学で行ったじゃないか」
「和紙を作ってる赤レンガ工場か!」
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