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10.ROLL(2010.Winter)
踏み込めなかった秋のことを私は深く刻んだ。あの時は稀な時間だった。彼が私に心を開いていた瞬間だった。
次に彼が素直に心を見せてくれたら迷わず告白しよう。そう決意した。
意志薄弱な私は、彼の名前と共に、告白するぞ!という決意と、告白の文面を毎日ひとり口に出した。
自分の中で留めていたら見えないものも、口に出すと現実味を帯びてくる気がして。そのうち、彼ノートも作成して、口に出した内容を文面に書き留めておくようにした。
保育を日案記入で段取りや振り返りをして質を高めていく作業と同じで、耳で聞き、目で見ることによって彼への気持ちと告白の決意を強めていった。
国語で書写をやらされていた時には感じなかったが、自分から意識的に気持ちを書き写すことで、日に日に想いが強くブレにくくなっていく手応えを感じた。書いて頁を増やしていくことで、書き続けた分だけ自信になっていった。書いている内容は至ってシンプル。
「すき。あいたい。すき。あいたいよー。今すぐあいたい。また今日もあいたいと考えてる。……」
恥ずかしいのであまり読み返さないが、同じような内容を語尾や表現方法の味付け、筆圧や文字の大きさを変えて綴っていた。
彼ノートは誰の目にもとまらないよう、濃い青紫色のビニール袋に入れた上でトートバッグにしまい、押入れの奥に入れて保管した。このノートを残しては死ねない、というか彼と会わないで死ねなかった。
一日を終える前に、ノートに記入するのが日課になった冬だった。
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