14.Sheep~Song of teenage love soldier~

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14.Sheep~Song of teenage love soldier~

土曜日仕事終わり。告白して付き合ってから初めて流樹に会う。 この間付き合うって言ってたけどやっぱりやめとくわー、なんて言われても平気なように、他、想定外のことが起きても平気なように酔ってからいこうと決意した。チューハイを飲んで自転車で目的の映画館付きのショッピングモールに着く頃にはすっかり良い気分になっていた。 「あ♪こっちだよぉ!」 彼の姿を見つけて大きく手を振った。私の目、幻は見ていないよね。酔いつつも半歩後ろに冷静な私がいる。 「久しぶり……でもないか」 「うん♪るーくんに会えて嬉しいな」 「呼び捨てでいいよ」 「わかったぁ、じゃあ私のことは凛花って呼んでねぇ?るーくん♪」 「それはやめてって」 「ごめん、ごめーん、るーじゅくーん♪」 「……大丈夫?」 駄目だ、引かれてる。崩れる砂山のように滑りだした口はもう止まれない。 しょうもないことを軽く明るく吐き出し続ける。いつまで? 「だいじょーぶだよ。さぁ映画館いこうよ。ポップコーン♪」 必要なことだけ喋りたいのに、どうでもいい言葉を付け足さずにはいられない。駄目だ駄目だ、この勢いを止めなくちゃ。止まらないなら口以外に振り分けなくちゃ。今なら何だってできる、と手を繋いでみた。振りほどかれないかな?冷たくされないかな?……特に変わりなし。 今日は流樹が見たい映画があるので、映画を見た後ご飯を食べる予定。 「え、見たい映画ってこれ?」 「うん」 彼がカウンターで映画名を言った瞬間、酔いは冷め切った。数年前からヒットしているホラー映画の続編だった。私はホラーが苦手だ。色々なことを思い起こすのがすきなせいか、怖い記憶も日々の合間合間に呼び起こしてしまう。小学生くらいのころは本気で眠れないことがあったので、それからずっと封印していた。しかも今は夜で、ここは家じゃない。最悪家に帰れないかもしれない!既に霊が乗っているかのように肩が重く感じる。 「これって……めちゃくちゃ怖いやつだよね?」 「そうでもないんじゃね?」 軽く流される。どうしよう。他の映画にしてほしい。何の映画が見たいかきちんと聞いておくべきだった。しくじった。でも、もう財布を開いて支払いの段階だ。後戻りは出来ない。大丈夫、一人じゃない。ありふれた言葉が今はとても頼もしく聞こえる。本気で怖かったら彼に抱きついて目も耳も塞いでしまおう。 座席は、真ん中。今はほのぼのアニメ映画を映し出している巨大スクリーンに、めいいっぱい恐怖が映るのか、と想像するだけで鼓動が早くなる。かわいい子どもの声が、悲鳴に変わるのか、と思うと何も聞きたくなくなる。大体、何でわざわざ怖さを求めに来るのか。日常では得られない刺激を得たいから?日常がやっぱりいいねと安心するため?ちっとも理解できない。日常にだって肝を冷やすことや怖いことはたくさんあるのに。隣にいる彼は何を求めて見に来たんだろう。 「早くはじまんねーかな」 「始まる前ってやたら長いよね」 と言いながら始まるな!と全力で祈るも虚しく、NO MORE映画泥棒が始まり、本編が始まった。 冒頭は海外の日常シーンから始まる。いつホラー要素が挿入してくるか、手に汗を握る。 「きゃ」 序盤、初めて怖さが見えて、彼の手を強く握った。登場人物の驚く顔と同じ顔をしてたんじゃないか。ま、まだ直視できるだいじょぶう。 「わぁっ」 中盤、急に怪奇現象が現れて、両手で彼の手を掴んだ。なななんとか見てられる。 「ひぃっ」 終盤、絶え間ない波のように怖さが押し寄せてきて、彼の腕にしがみついた。わからない者に襲われて逃げる主人公と気持ちが重なる。 私も逃げたい、去りたい、この場にいたくないいいぃい。終わることのない恐怖に反応するのがしんどくなって思い切って言ってみた。 「ねぇ帰りたい……」 「はぁ?」 怪訝な顔で一瞬見られたけど、すぐ視線を画面に戻る流樹。頑張って発言したが、あっさり却下された。あああああと何分だろ。上映時間を把握しておけばよかった。でも、もうすぐクライマックス!怖さもクライマックス!そうか、cryがMaxなのか?cryってなんだっけ?悲しい?後で携帯で検索しよう。 頭によぎったどうでもいいことを考えているうちに、充電切れでぷつっと切れた携帯電話のような、釈然としない終わり方で幕を閉じた。 エンドロールになるが、緊迫したBGMが続く。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ怖かったぁああああああ怖かったよぉぉぉぉおおお」 明るい所に出て、やっと開放感を感じ、長い溜息をもらした。 「凛花、怖がりすぎ!」 本気でびびってたよな、と笑われたので腹が立って言い返す。 「だって本当に怖かったもん。今夜寝られないよ!何でこんなの夜に見んのよ!信じらんない!!」 「夜だからいいんじゃん。怖さが増すだろ?」 「もー絶対見ないからね!」 「はいはい。何食べる?」 「食欲とか失せちゃったよー」 「とかいって、食うんだろ?」 「ええ食べますけどぉ、明るいとこがいい」 「じゃあラーメン食おうよ」 「えー!せっかく付き合ったんだからロマンチックな甘いところにいきたいよ」 「なら、ラーメンの後甘いもん食いにいこ」 「うん!」 付き合ったんだから、を否定されなかったのが嬉しくて、素直に頷いた。夕食時より遅くなったので、ほとんど待つこと無く席に座れた。 考えるのが面倒くさかったので流樹と同じラーメンにした。 「流樹くんはホラー好きなの?」 「特にすきってわけじゃねぇよ。面白そうだったから」 「へぇぇ。私は恋愛系かジブリしか見ないな」 「じゃあ一緒に映画見れないな」 恋愛ものとかオレ寝ちゃうからさぁ、と箸を割る音で映画の話題は終わった。 ホラーは本気で怖かったけど、日常がとてつもなく幸せに思えるから悪くはないかも、とこっそり思った。2人で並んで食べ終えて店を出て、旅行代理店のパンフレットの列の前で立ち止まる。 「あ、旅行!旅行いきたいなぁ!近場でもいいし、どっか2人で行きたいなぁ」 映画みたいに好みがあるかな?温泉?観光?北海道?沖縄?ディズニー?USJ?その他?国内でもきっと互いに行きたい所が見つかるはず。 「あのさー……」 「なに?」 「付き合い始めにこんなこと言うのも……って感じだけど」 「うん?」 緊張が走る。
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