35人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
16.ラビュー・ラビュー(2012.February)
【産んだった。みっつと一緒に新生児の勉強しにおいで★】
【おめでとう!勉強て笑。聞いてみるね!】
2月中旬、かじ先生から出産報告の面白いメールが来た。返信し、彼にメールを作った。
【かじ先生が出産して、お見舞いに来いだって笑】
【えー】
【新生児の勉強に来なさいって。かじ先生に付き合ってること言っちゃったから気になるんだよ、おねがい(>_<)】
【わかった】
お見舞い当日、病院に行く途中の本屋に寄った。たまごクラブ、ひよこクラブ、CMでしか聞いたことのない書名が並ぶ、育児コーナーへと足を踏み入れた。
かじ先生の好みもわからなかったので、お土産は自分の勉強がてら育児関連のものにしようと思っていた。
考えに考え抜いた末、シリコンスチーマーがセットになった離乳食のムックを手土産に、病院に向かった。沈みゆく赤い夕日の下、産婦人科前で流樹が立ってる。
会ってそうそう怒られた。
「もーこんなとこで待たせんなよ。居心地悪いっつの」
「ごめん、ごめん、お土産選びに時間がかかっちゃって」
自分はいっつも遅れてくるくせに……と思いながら、自動ドアをくぐり、301号室に向かった。
「こんにちは!」
ノックして入ると、真っ白の清潔そうなベッドにかじ先生とその横に赤ちゃんが寝ていた。ちっちゃすぎる。異星人のように顔のパーツの輪郭が曖昧で、動きが変則的でちょっと不気味。保育園の数ヶ月大きい子どもがとても大きく見えるほど、身体は小さく、手足の動きもおとなしい。
水色の帽子がちらっと見えるから男の子かな。女の子はピンクなのか。生まれた瞬間から青とピンクを着せられたら、そりゃあその色がすきになるだろうと思った。クレヨンでいつも青を選ぶゆうたくんを思い出した。
「久しぶりやん!」
「わーおめでとう!ちっちゃいー!」
かじ先生の隣に駆け寄る。流樹は入り口辺りで突っ立ったままだ。
「みっつも何年ぶり?元気してた?」
おいでおいで、と過剰に手招きするかじ先生は、昔から大阪のおばちゃんぽかったけど、出産して更におばちゃん度が上がったように思う。そういえば、みっつという愛称をつけて皆がはかりかねていた彼との距離をぐっと縮めたのも彼女だった気がする。
「お久しぶりッス。おめでとうございまーす」
「ふじからいろいろ聞いてんでぇ!大事にしたってやー!」
何話してんだよ、と流樹に頭をこづかれた。無視して、赤ちゃんを抱っこさせてもらう。
ふわっと重量感がなくて怖かった。丁寧に丁寧に接しないと崩れてしまいそう。目を合わせながら話しかけた。
「軽っ!はじめましてー、りんかでーす。……名前決まってるの?」
「りゅうき、なるき、まなと辺りで悩んでるー」
響きから付けたいなと思ってんねんけど、漢字も悩むーというかじ先生の枕元には男の子の名づけ本が数冊置いてある。本の分厚さが一生を背負う重さを現している。
「りゅうきってオレよく間違われたわ」
「じゃあやめとこ」
「なんでスか」
「ちなみにどんな漢字なん?」
「流れない樹木で、るーじゅ」
「へぇー。なんでるーじゅって親御さんはつけはったん?」
「知らないけど杏樹と揃えたかっただけじゃねぇかな」
「あぁ双子感出すために?」
「そう」
「まぁ二人分いっぺんに名前考えるの難しいよなぁ。うちなんか一人でも悩むもん」
「うちは樹里って姉もいたから余計に樹にこだわったんじゃねぇかな。でも兄弟同じ漢字だと郵便がややこしいから、やめといたほうがいいかも」
流樹が2年目の時にかじ先生の補佐に入ったからか、2人は仲が良い。在職中は、自分からあまり話さない私よりも、かじ先生との方がよく喋っていたのではないか。テンポ良く進む2人の会話にやっと割入った。
「え、双子なの?」
「うん、言ってなかったっけ?」
「初めて聞いたよ!似てるの?」
「一卵生じゃねぇし、そんなに。そのやりとりがめんどくせぇからあんまり言わないようにしてんの」
双子っつーと、一卵生のコピーみたいなん想像されるからなー、と愚痴る。
「そういや、双子って一人ずつ出てくるやんなぁ?」
「あー、そうじゃねスか。生まれた時間違うし」
「あんな痛いの2回とか尊敬するわー!1回でもへとへとやったわ」
まだ痛みが残ってる……と空っぽだけどふくよかなお腹をさする。
「ちなみに、先に生まれたの?後?」
「それ聞いてどうすんの?兄か弟で何か変わるわけ?いっつも思うけど」
うんざり顔をされる。こっちは身近に双子がいないから興味津々だけど、当の本人からしたら何度も同じこと聞かれるとたまったもんじゃないんだろうなぁ。あまり触れられたくない感じなのかな、と思いつつも気になる。
最初のコメントを投稿しよう!