序章

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序章

 アレは、わたしがあなたになった夢?  それとも、あなたがわたしになった夢だったのか――。    が咲いていた。  純白の無垢な花びらを眺めていると、いつのまにか浮かんだ真紅の斑点は、広がっていった。  禍々しくも艶美な赤い百合の花に、魅せられる。  無垢な白百合の世界に包まれていた瞬間の空虚感は、薄らいでいく。  代わりに、血の中で咲き湧いてくる熱い高揚感に駆られ、目前の真紅の花びらを毟り取った。  不思議と笑みが浮かんできた。  赤い、どこまでも赤くて、暗くて、綺麗で、赤い――。  どこを見渡しても赤、赤赤赤赤赤――赤い――。  果てなく世界を咲き染める、赤い白百合に見惚れていた最中――真っ赤に染まった世界で、事象は暗転していた。  いつのまにか、真紅の百合の花畑に佇んでいた私は、鮮やかなに浸かっていた。  赤い水面に浮かぶ肌色の物体は、人間の手や足だった。  茫然と佇む私の右手に掴んでいる、銀に輝く鋭利な物体から滴る、赤い滴。  悲鳴すら掻き消された恐怖に、血が凍る思いで――目は覚めた。  ああ、そうか。  これは――(うつつ)の夢だ。  さりげなく、現実に近しい悪夢。  あの出来事も――全ては私のおぞましい願望、黒い欲望が見せた悪夢だったのだ。  夢だと自分に言い聞かせた途端、私の推察を肯定するように、世界は再び白百合に咲き染まる。  純白の花びらの舞の縫い目から一瞬、の姿を見た気がした。  いつもと変わらない微笑みを咲かせているに違いない。  あの夢のように”おぞましい行為”すら、彼はまたしてものだろうか。  彼が私の立場にあれば、彼もあのように残酷な行為を望むのだろうか。  ふと、私は冒涜的な疑問を思い浮かべながら、彼のいる現実へと帰っていく。  *****
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