第二章『幸福恐怖症』

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 翌年・二〇二一年の麗温(れいおん)な春――。  青百合市の桜並木の道を晴斗と一緒に歩いていく。  桜色の天幕の中を歩く足元には、青百合の花々が小川さながら美しく咲き揺れていた。  「また来年も、美天と一緒に桜を見れますように」  春風に舞う桜の花びらを手に取った晴斗は、願掛けしてくれた。  初めて晴斗と一緒に見た桜は、今まで一番綺麗で、幸せな色に満たされていた。  桜の花色は、晴斗のように淡く優しいのに、自分達の記憶を鮮やかに彩ってくれた。  青百合市の名産物である百合の花は、空を映したように青々と美しかった。  来年も続いていく私達の幸せを、示すように。  *  灼熱の夏は、色々な場所へ行って、色々なことを二人で一緒にした。  互いにとって十年ぶりだった熱砂の海辺も、夜の花火大会も、初めて来たような新鮮で楽しい時間だった。  子どもの頃とはまったく違う、大人っぽい彩りの水着も浴衣も、恥ずかしくて緊張していた。  「美天・・・・・・何だか、いつも以上に・・・・・・その、綺麗だね・・・・・・」  普段から正直で褒め慣れているはずの晴斗は、気恥ずかしいそうで、瞳は熱っぽく揺れていた。  すると、美天もますます胸が高鳴り、顔は熱を帯びて・・・・・・けれど、それ以上に嬉しくて、舞い上がっていた。  *  黄金色の静謐、茜色の寒気に染まる季節――。  去年、晴斗と恋人になった秋を迎えた後。  「ねえ、美天。この間の話だけど」  「お母さんとお父さん達が言っていた、大晦日と正月の話?」  「うん、それもあるんだけど・・・・・・」  十二月十四日の静やかな冬季――。  行きつけの喫茶・薔薇園でお茶をしていた美天と晴斗は、手を繋ぎ合わせながら和やかに話す。  ついこの間、二人の両親は新幹線で二時間かけて遠路遥々、二人の住む青百合市を観光も兼ねて尋ねて来てくれた。  美天の父親は病院の管理栄養士、母親は英会話教室の講師だ。  父は、おっとりとした温和な人柄。  母は海外留学経験の長さから、快活で毅然とした話し方をする。  二人共に、一緒にいて明るい気持ちになれる所が、昔から好きだった。  .
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