第二章『幸福恐怖症』

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 「美天――これからも、僕とずっと一緒にいてほしい」  鞄から取り出した一枚の封筒を、晴斗は差し出してきた。  白百合が咲いた綺麗な模様の封筒に、美天は首を傾げながらも中身を開けて見た。  途端、美天の瞳に驚きと歓喜が広がっていく。  「! 晴斗・・・・・・これは」  「急な話でごめん。でも、美天に受け取ってほしいんだ」  封筒の中身は、一人分の旅行券(チケット)・・・・・・しかも、五泊七日間のドイツ旅行だった。  真ん中には、十二月二十五日のクリスマス(キリスト降誕祭)を挟んでいた。  それ以上に美天が驚愕したのは、旅行券の書類の下に重ねられただった。  既に幾つかの欄が埋められた書類を手にする美天の指先は、微かに震えていた。  「返事は、向こうへ着いた時に、聞かせてほしい」  「晴斗」  「それじゃあ、おやすみ。また明日ね、美天」  驚きで言葉が出ない美天を他所に、晴斗は照れくさそうに微笑む。  これ以上はいたたまれなくなったのか、美天の頭を優しく撫でると、扉を閉めて帰って行った。  しかし晴斗が帰ってからも、暫し美天は玄関で放心していた。  晴斗が渡してくれた書類に既に刻まれた、晴斗の名前をなぞってみる。  晴斗らしい丁寧で柔らかな字に愛おしさを覚えたが、濡らさないように気をつけないと。  嘘のように嬉しくて、夢のように幸せだった。  当たり前のように晴斗が隣にいてくれて、大切にされ、愛してくれることはあまりに幸せで・・・・・・時折、、涙が止まらない夜を過ごした。  正直な話、唐突に舞い降りた夢のような現実に、感情は追いつかない。  けれど、晴斗も自分と伴にある未来を希ってくれたことは、何より嬉しかった。  こんな自分のような人間が、大好きな人に愛されるなんて。  伴に生きる幸福を得られるなんて。  数年前は、ちっとも想像できなかった。  幾つもの迷いや不安はあったが、美天の心は既に決まっていた。 .
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