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「晴斗・・・・・・」
何もかもは、順風満帆だった。
しかし、美天は直ぐに思い知らされた。
今の幸福は、再来する嵐の前の静けさに過ぎなかった、と。
「久しぶりだな、朝比奈――」
この世で最も恐ろしいものは、苦痛や暴虐ではない――。
幸せが壊れる瞬間――だ。
「――どうして」
当たり前の幸せは、一度壊れてしまえば元に戻せないことを。
形だけは修復できても、壊れる前の亀裂のない綺麗な状態には、二度と戻せない。
「少し、話さないか?」
『破壊者』は知らない、何も考えない。
幸せを壊された人間の気持ちを。
壊された後のことを。
飛び散った破片は、周りも傷つけることを。
チャチな悪ふざけ破片の一擦りでも、人を殺すのには十分事足りることを。
「昔、一緒に遊んだ仲だろ?」
奪う人間には分からない。
永遠に出口の無い暗闇の空洞を彷徨う苦痛を。
生きて這い上がろうともがき続けた末、やっとの思いで一筋の光を見つけた、人間の涙の熱さを。
「俺も朝比奈に逢いたかったんだ」
奪う人間は踏みにじる。
陽の当たる世界へ力一杯伸ばした、傷だらけの手を踏みつける。
そして、希望を掴もうとした迷子の人間を嘲笑いながら、再び穴蔵の底》へ突き落とすのだ。
汚れを拭きとった紙を躊躇なく捨てるような、実に残酷な軽さで。
約束の日まで、残り一週間――。
***続く***
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