第二章『幸福恐怖症』

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 「晴斗・・・・・・」  何もかもは、順風満帆だった。  しかし、美天は直ぐに思い知らされた。    今の幸福は、再来する嵐の前の静けさに過ぎなかった、と。  「だな、朝比奈――」  この世で最も恐ろしいものは、苦痛や暴虐ではない――。  ――だ。  「――どうして」  当たり前の幸せは、一度壊れてしまえば元に戻せないことを。  形だけは修復できても、壊れる前の亀裂のない綺麗な状態には、二度と戻せない。  「少し、話さないか?」  『破壊者』は知らない、何も考えない。  幸せを壊された人間の気持ちを。  壊されたのことを。  飛び散った破片は、周りも傷つけることを。  チャチな悪ふざけ破片の一擦りでも、人を殺すのには十分事足りることを。  「昔、仲だろ?」  奪う人間には分からない。  永遠に出口の無い暗闇の空洞を彷徨う苦痛を。  生きて這い上がろうともがき続けた末、やっとの思いで一筋の光を見つけた、人間の涙の熱さを。  「俺も朝比奈に逢いたかったんだ」  奪う人間は踏みにじる。  陽の当たる世界へ力一杯伸ばした、傷だらけの手を踏みつける。  そして、希望を掴もうとした迷子の人間を嘲笑いながら、再び穴蔵の底(絶望)》へ突き落とすのだ。  汚れを拭きとった紙を躊躇なく捨てるような、実に残酷な軽さで。  約束の日まで、残り――。  ***続く*** .
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