第三章『絶望の先』

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 「よぉ、遅かったな」   美天の着いた場所は、王百合市内に点在するバーガーチェーン店の一つ。  店内で談笑する学校帰りの学生や休憩中の社員、茶会中の中高年達を横切った先にある、仕切り付きの二人がけテーブルで、美天は男性と落ち合った。  軽佻浮薄に微笑む男性に、美天は不快感を隠せない中、恐々と向かいの席へ腰掛けた。  仕事帰りらしく、男性は紺色のスーツに白いワイシャツ、洒脱なデザインの青いネクタイを身につけた会社員らしい格好だ。  髪も耳に軽くかかる長さにワックスで控えめに整え、慎ましい焦げ茶色に染めている。  しかし、いかにどこでもいる普通の好青年風の新人ビジネスマン男性の唇は、悪意を描いていた。  「それで・・・・・・話って何・・・・・・?」  「同級生に久しぶりに会ったっていうのに、随分つれないんだな。むしろ、朝比奈の方が、俺に用があるんじゃねぇの?」  怯えを必死に押し殺している美天を映す瞳には、相手の冷酷な光が揺らめく。  相手は、テーブルに置きっぱなしの携帯端末へ意味ありげに触れながら微笑む。  相手の意図を感じ取った美天は、携帯端末を凝視したまま凍りつく。  やはり、何もかも変わっていない。  普通の好青年の顔に隠した下種(げす)張った性根も。  最中、現実ではわずか数秒ほど意識の半分は、へと無理やり引き摺り込まれた。  くだらない理由で、自分から全てを奪ったこの男との過去を。  * .
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