第三章『絶望の先』

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 『おい、お前しっかり縛って押さえつけとけよ』  『ねぇ・・・・・・これは、さすがにヤバイよ・・・・・・! 今からやめても遅くは・・・・・・』  『は? 俺に指図するなよ、奴隷の分際で。俺をコケしたこの女に罰を与えないと』  一体、今何が起こっているのか――感情よりも先に本能は、数秒足らずで暴れ狂うことで応じた。  ようやく、状況を頭で理解したのは、半身を縦一直線に引き裂かれそうな尋常ではない激痛に悲鳴をあげてから。  (わら)いさんざめく、男達の喧噪。  臓腑を奥内側から迫り上げられるような不快感、魚の腸をぶちまけられたような生臭、脳味噌をかき回されるような恐怖へと深く――深く溺れさせられた底で、汚らわしいとなった自分と逢った。  自分の身に降りかかった現実を照らし晒す朝陽に、目覚めた頃――。    朝比奈・美天という人間は、にまみれていた――。  *  「用事は・・・・・・それだけ? 昔話をしに来ただけなら、もう帰るよ・・・・・・」  全てを奪った相手が目の前にいるだけで、美天は生きた空もなかった。  一瞬でも気を抜けば、絶叫と共に失神しそうだが、この男と自分自身が許さなかった。  発狂寸前の気持ちを必死に押し殺す美天は、毅然とした言葉を返そうとする。  「まあ、待てよ。それだけのために、電車で見かけたお前にわざわざ声をかけたんじゃねーんだ。ただ朝比奈と俺の両方にとって、を持ってきたんだ」  美天の恐怖と怯えを見透かした田辺は、ニヤリと唇を吊り上げる。  と同じだ。  心の虚に乗ずる下卑た邪悪な笑みに、全身の皮膚が粟立つ。  出来るならば、今から叫びながら走って逃げたい。  しかし含みのある台詞、悪意の視線が導く携帯端末に、美天は猛烈な胸騒ぎと同時に最悪の可能性へ思い至った。  「まさか・・・・・・あなた」  「こんなこともあろうかと思ってな、ちゃーんと大事にしているぜ」  田辺は、最悪の推測を肯定するように笑みを不気味に深めると、自分の携帯端末を目の前にかざして挑発する。  携帯端末の画面から一瞬だけ覗いた、一枚の暗い画像データに、美天の双眸は絶望に見開かれた。 .
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