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「や、やめて・・・・・・!」
頭で考えるよりも先に、美天の口と手は弾かれたように動いた。
しかし、必死に伸ばした手も張り上げた叫びも、田辺の指差しと高々と遠ざけられた手によって、無情に押さえつけられた。
「まあ、落ち着けよ、な?」
他聞を憚る内容なだけあり、美天は思わず手と口を押さえる。
しかし、心の内側は嵐のように半狂乱に吹き荒れていた。
まさか、『あの時』を撮られていたなんて――!
当時は狂いそうな恐怖と激痛と混乱に呑まれていた。
しかし、今振り返ってみれば『あの時』の最中、一瞬だけ光と音を複数回捉えた気がした。
まさか、カメラのフラッシュだったなんて。
あの後――あの時の悪夢をとにかく早く忘れたくて、必死に意識から締め出そうとしていた。
しかし、あの時のことを思い出す頻度が減りつつあった今になって、予期せぬ邂逅と問題に直面させられるとは。
「そんな表情するなって。ただ、俺は画像整理中に見つけたコレをどう処理すべきか、朝比奈と相談したいだけだ」
「・・・・・・一体、何が欲しいの」
田辺とは電車内で偶然再会したとはいえ、今更自分に何の用があるのか。
田辺は、過去に関わって弄んだ女に執着するタイプとは思えないため、尚更目的が読めない。
しかし、美天の見解は微妙に誤りであることが、田辺の不穏な台詞で思い知らされた。
「そうだなあ・・・・・・まずは先輩とダチに借りを返したい所だが、生憎資金がな・・・・・・」
卑しい笑みを崩さない田辺の台詞を直ぐに理解した美天は、迷わず鞄から財布を取り出した。
明るい白地にレモン柄の財布から無造作に引き出したお札を、田辺へ突き渡す。
お金に目の色を変えた田辺は、渡されたお札を嬉々と数える。
陰鬱に俯いて震える美天のことは、既に眼中の外だ。
「三万円か・・・・・・まあ、ないよりはいいが・・・・・・これっぽっちじゃキャバ代にもならねぇ」
「今日は、それしか持ち合わせていなくて・・・・・・」
「おいおいマジかよ。病院勤めのわりには、安い仕事してるな」
美天の所持金が想定よりも少ないことに、心底失望していた。
金を奪われた挙句、正確な役職名すら理解していない怨敵に、自分の仕事と誇りまで侮辱された美天は唇を噛む。
「これで、データは破棄してくれるの・・・・・・?」
それでも、喉から迫り上がる悲憤と屈辱感を、ぐっと押さえた美天は問う。
今の美天にとって、金と名誉よりも先ずは、忌まわしき過去の遺物の行方と処分だ。
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