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「所で失礼だけど、小鳥遊さんは両親がイタリア人とか?」
「いや、両方とも生まれも育ちも生粋の日本人だよ? まあ、昔は二人と一緒によく、ドイツに行ったことはあるかな」
晴斗は天然で相手を褒め殺しに来るし、距離感も遠慮深い和人らしからない。
しかし、友好的で紳士と思われるイタリア人疑惑は、外れた。
晴斗の口から出た、両親とドイツの話題に、美天は思わず興味をくすぐられた。
「ドイツに? いいなあ。クリスマスマーケットとか、有名だよね? どうして?」
「実は父が精神科医で、母も父と同じ医大出身の臨床心理士なんだ。ドイツは留学時代に行ってから、現地の友達とよく交流していて。美天さんは海外には?」
「えっと、高校の時に一度だけ、三カ月間のオーストラリア交換留学には・・・・・・」
「オーストラリアいいね。そっちでは、サンタクロースが海辺でサーフィンして、人はカンガルーに乗っているんだよね?」
「晴斗君、サンタがサーフィンするのは本当だけど・・・・・・さすがにカンガルーには乗らないよ・・・・・・実は意外と獰猛なとこあるし」
「え? そうなの? てっきり」
「そうだよー、あははっ」
美天のオーストラリアの話に、今度は晴斗が食いついてきた。
オーストラリアへ渡航したことのない人間が真っ先に思い浮かべる、嘘みたいな本当とその逆の話に、美天は破顔してしまった。
「あ・・・・・・何だか初めて見た気がして新鮮かも・・・・・・美天さんの笑顔」
「え?」
「普段の美天さんもいいけど、さっきみたいに自然に笑っているのも、僕は好きだな」
またしても、晴斗がさりげなく零したくすぐったい言葉に、美天は顔を真っ赤にするが、反論する気力すらなかった。
しかし、先程みたいに屈託なく笑うのは数年ぶりかもしれない、と美天自身も感慨深かった。
今は普段、どれほど陰気な表情で過ごしているのか、自分でも分かっているくらいなのだ。
しかし晴斗と一緒にいる時だけ、美天は数年よりも遥か昔の自分に帰って笑い、普通に話すことが出来た。
今思えば、晴斗の存在が自分に失われていた笑顔、と楽しみを心に蘇らせてくれたのだ。
かくして、一年先輩の新米PSWの美天、と一歳年下の優秀な新卒PSWの晴斗は、距離を急速に縮めた。
互いに下の名前で呼び合う親しい同僚から、感情を共鳴し合うまでの仲へ至るまでに、時間は有さなかった。
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