僕の愛餓を満たす欲

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僕の愛餓を満たす欲

 空で雷が光っている。  遠いどこかで鳴り響くそれを耳にすると、次は近くに落ちるのではないかと考えてしまう。  そんなとき、この呼び出しは願ってもないものだ。  高い位置で灯す小さな炎と、時折雷という心もとない灯りで照らされた暗い廊下を自分なりの大きな歩幅で突き進み、ある一つの扉の前で立ち止まった。  手首のスナップをきかせ二回叩く。中から「入りなさい」と声が聞こえた。耳が遠くなっている老人ならば、おそらくこの声は聞こえない。 「失礼します。お呼びですか……? 公爵様」  執務机の上を除いて、これまた暗闇の空間だ。  大事な仕事の書類だろうか。彼の目線の先は下に注がれていた。目の前にボクがいて、呼び出したのは彼だというのに、この対応はいかがなものか。  微かに目を細めたのとほぼ同時に彼の顔が上げられた。無駄だと知りながらも即座に笑顔を取り繕う。首を少し横に倒せば可愛さが増すことなど、当の昔に鏡の前で実験済だ。勿論自己評価に過ぎないけど。  首に違和感を与え、すっかり慣れてしまったその存在が、白色の毛先と共に肌に触れ、金属特有の冷たさを伝えてきた。彼はその金属……自分の所有物だと証明する首輪を飽きずにも見て、不敵な笑みを浮かべた。 「お前の匂いを嗅ぎ付けたやつがいる。可哀想に。生活に困って情報を売ろうとしているようだ」 「公爵に?」  入室の了承を感じ取り、さも当然のように彼の膝の上に乗りに行く。
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