森錠のロックはキーが無くては開かない

1/6
前へ
/6ページ
次へ

森錠のロックはキーが無くては開かない

 どうか、これだけは忘れないで。  忘却に飲まれたら、何かなんでも外へ出なさい。  記憶族だけが、アナタを取り戻せる。     ──オモイ……ダシテ………。  聞き覚えのある、声が聞こえた気がした。  足首の装飾から伸びている金属が触れ合い、カチャリと静止の声をあげてくれる。その親切にも気付かずに、裸足の足は前へと進む。  一歩。一歩。  また一歩。  小石を踏む痛さなど、全く感じない。  隙間なく植えられた草木を掻き分けようと、手を伸ばした。 「──アトラ!」  自分を表す名を呼ぶ声に、意識を引き戻される。  殆ど無意識に森の中に入ろうとしていた足を見て、恐怖心が体の中を一気に駆け巡った。 「あ……」  僕は今、何をしようとしていたのだろう。  もう何度目か。  また……やってしまった……。 「見つけた……!」 「オブリオン……」  息を切らしている友人の姿を見て、必死に探してくれていたのだろうと察すると、罪悪感も混み上がってきた。  目の前の、怪物にしか見えない森の空間から逃げ出すように、彼のところに駆け出す。  僕が彼を掴むよりも先に、彼が僕の肩を掴んだ。  存在を確かめるように、強い力で。 「森に入っては駄目だと何度言ったら分かる! いい加減にしないと、庭に出るのも禁ずるぞ!」 「ごめんなさい……」 「言い訳は? 今回は何で入ろうとした」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加