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「……森の奥には、忘却族がいる」
耳元に顔を近付けられ、呪文の言葉を囁かれた。
「忘却族に気に入られたら最後、それまで過ごしていた場所、家族、友人、名前……全ての記憶を奪われて、それらの場所には戻れなくなる。もうここには……戻って来れなくなるんだ」
「記憶族に……記憶を取り戻してもらえるまでは……だったよね」
「そうだ。もしお前が奪われても、オレはお前を戻してやれる。でも、それはオレがお前を見つけられたらの話だ。忘却族は執着が激しい。決して見付からない森の奥深くに宝物を閉じ込める。そこは記憶族であっても、見付けることは出来ない」
忘却族に記憶を奪われた人間は、記憶族に見つけて貰わなければならないという思考すらも奪われる。
見つからないといけないのに。見つかれば助かるのに。見つかってはいけないと……。
──あれ?
「アトラ」
目の前にオブリオンの指が立てられた。
あれ? 僕は……。
僕は……何を考えていたのだろう。
僕にはよく声が聞こえて。
前にオブリオンが、それは忘却族の囁きだと教えてくれて。
でも僕は忘却族に気に入られるようなことは何もしていなくて。
囁かれる理由なんて何もなくて。
あれ…………?
あれ……?
あれ?
僕はいつからここで暮らしている?
どうして彼と暮らしている?
僕の両親は?
僕の本当の家は?
僕は────
僕は……誰なんだろう……。
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