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「いいか? 忘却族は危険な存在だ。気に入られてしまえば手遅れなんだ。囁きの声が聞こえなくなるまで、しばらく屋敷の外に出てはいけないよ?」
「うん……」
「ここにいれば安全だ。お前が連れていかれることはない。お前が拐われるとすれば──森の中に入ったときだけだ」
「大丈夫だよ……。足枷の鎖をベッドにでも繋いでおけば、意識を奪われても部屋から出られないから、外にも出られない」
こんな簡単なことに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。
チェーンを短く切っても、部屋から出られるんじゃ、僕は連れていかれるかもしれない。
そしたら君は、また不安に陥る。
僕はまた、心配をかけさせてしまう。
それなら出られないようにすればいい。
これで君は安心出来るよね?
僕も怖いことは何もなくなる。
何も……。
「ずっと一緒にいよう? オブリオン」
僕には君だけなんだ。
僕の家族も、僕の友人も、君一人だけ。
他の誰も……思い出せない。
けれど、誰を忘れても、何を忘れても、君だけは忘れない。僕のためを思って言ってくれた、君の言いつけも絶対に忘れないよ。
忘却族に好かれてはならない。
森に入ってはならない。
もしも飲まれたら、何がなんでも外へ出なさい。
自分自身が鍵となる。自分自身を外へ……鍵穴に差し込めば、記憶族がきっと助けてくれるから。
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