1人が本棚に入れています
本棚に追加
決して喜ばしいとは言えない内容に対し、僕は思わず声を明るくしてしまった。
また、不快にさせたかもしれない。
不安を感じながらも彼の顔色を窺った。さほど気にするそぶりを見せない様子を見て幾分か安心する。
「旧友がいたとしても、もう忘れた。たった一人……宝物がいれば、それでいい」
――もう寝なさい。
そう言われたかのように頭に乗せられた手は、どこか懐かしく感じた。
その手はこの手でないけれど、そんなことはもうどうでもいい。
僕には君しかいないように、君にも僕しかいなければいいのにと願いながら目を閉じる。
目が覚めたとき、また何かが抜け落ちていた。
その何かはわからない。
いいよ。
忘れるくらいなら、さほど大切なものではないだろうから。
―了―
最初のコメントを投稿しよう!