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午前11時過ぎ。説明会後、1時間以上は経った。校舎内はいつもとは違う静けさと殺伐とした雰囲気が漂っている。
すでに”登竜門”に向かった者もいるのか、朝よりは人が減っている。ある者は必死に身体を鍛え、またある者は挙動不審に周りの様子を窺う。
リング達はなぜか校舎を出て、グラウンドを歩いている。そして、理科室へと近づいていた。
理科室には、子どもが一人通れるか通れないかギリギリの大きさの小さな窓が一つある。その窓の向こうには、一本の大きな楓の木が生えている裏庭がある。
実はこの裏庭はグランドの奥、雑草が生い茂っている細い道から行くことができる。ただ、あまりにも雑草が茂っているためそれが道だとは誰も認識していなかった。
リングはある昼休み、その秘密の道の近くでボール遊びをしていた。その時、ボールが茂みの向こうに飛んで行ってしまった。リングはボールを取りに行こうと、茂みの中に入った。
すると、そこはただの茂みではなく、道であることに気がついた。道を抜けると、理科室から見える裏庭に出た。ボールは大きな楓の木に引っかかっており、リングは木に登って取りに行った。
その時、太い枝の上に人影があるのを見た。見覚えのある、黒髪に赤いスニーカーと青いTシャツ。そこにいたのはシイだ。シイはそこで昼寝をしていたのだ。リングは偶然、彼が昼休みにここで昼寝をしていることを知った。そして、時々遊びに行っていた。安眠の妨げだと怒られてはいたが。
ガサガサ、ゴソゴソ、ぺキぺキ
雑草を踏みつけ、リングは細い道を通った。
リング「全く。本当にここは木が生えすぎ。いつも通りづらいったら」
リングはぶつくさと文句を言いながら先へ進んだ。大きな楓の木はいつもと変わらぬ様子でどっしりと裏庭に構えている。リングは木の枝に掴まり、幹に足をかけて登り始める。シイがいつも通り太い枝の上で眠っているのが見えた。リングは彼の姿を見て安心する。
リング「シイ君!! あと1時間で出発だよ! 寝過ごして強制失格になっちゃうよ! 起きて!」
リングは力が入り、大きな声を出す。安眠の妨げに、シイは不機嫌そうに眼を開けた。
シイ「……なんだよ、お前か。秋原リング」
彼は続けて言う。
シイ「知らないのか。12時に出発するヤツはそう、いない。いたとしたら、馬鹿か、スピードに自信があるヤツ、だ。強いヤツや頭のいいヤツはある程度時間が経ってから出発、する。」
彼は話す時に言葉の所々で句読点が入るのが特徴的だ。普段から無口なシイの独特な話し方をリングだけはよくは知っている。
リング「え……。知らなかった。でも、強い人が後で出発するなら、先に出発する方がいいんじゃ、ない?」
シイと話すとリングはつい、話し方がつられてしまう。
シイ「お前みたいな馬鹿なヤツが大勢12時に出発するから、血の海になるんだ」
リング「ちっ血の海。いや…。」
リングは青ざめる。
シイ「だったら遠くから”登竜門”を監視しながらスタートすることだな。じゃ、俺は、寝る。用が済んだなら、さっさとどっか行け」
ぶっきらぼうに言うと、シイはまた目を閉じた。リングは一旦木から降り、細い通路の向こうで待つ三人の元へ戻る。今までの会話の内容を三人に伝えた。
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