1話 試練の始まり

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「ファイトの教官、二藍(ふたあい)ランです。これから、第百回ファイトの説明を行います」  ランは二藍の長いストレートロングに、紺色のナポレオンジャケット、白いパンツを履いている。ランは普段はリングの担任をしている教師だ。だが、彼女は教職以外に、国の護衛を担当する騎士団の所属もしている。  普段はおっとりとした性格で優しいランだが、この日は今まで見たことがないくらいの威厳のある冷たい表情のランを見て、リングは緊張が増す。 ラン「皆さん、第百回ファイトの出場、おめでとうございます。皆さんは今日より、この学校の東方にある、"平和の森"の入り口、"登竜門"を起点に一番奥の旧キング・クイーン城を目指していただきます。  道のりは決まっておらず、当然近道もございません。また、時間制限はございません。ただひたすらに古城を目指していただきます。  参加者同士が対峙した場合は話し合う・戦闘する等の方法で先へお進みください。戦闘の際の殺生についても規則はありません。」  ランの話す内容はあらかじめ、ファイトの出場権を得たときに書面に記載があったが、改めて聞くとより緊張した。リングは唾をごくりと呑み込んだ。 ラン「ですがもし、生命の危機が脅かされるような事態となれば、棄権することは可能です。たとえ、王と女王になれずとも、国の防衛に携わる騎士団に入隊するなど、皆さんの未来はたくさんの選択肢があります。 どうか棄権することを恥ずかしく思わないでいただきたいです」  いつもの穏やかなランの笑顔に戻った。リングは少し安心した。説明は続く。 ラン「もしも、棄権をしたい場合は手を挙げ”リタイア”と唱えれば棄権できます」 ?「イタリアか。よし、覚えておこう」  リングの隣の席の少年が言った。彼は雨原(うはら)サジノスケ。金髪の寝癖ぼさぼさ頭に黄緑色の瞳の彼は、黄色と黄緑色のチェック柄のマフラーを年中身につけている。彼はリングと同じクラスだ。 リング「……違うよ。リタイアでしょ」 サジノスケ「ああそうか! リングちゃん。ありがとう」  リングはやや呆れてツッコむ。リングの助け船に、サジノスケの頬は赤らむ。サジノスケはリングに淡い好意を寄せているのだが、リングはそのことに気付いていない。何とも複雑か関係なのである。 ラン「そこ、私語は慎むように」  リングとサジノスケの二人は注意される。周りの冷たい目線が二人を突き刺す。ランは続けて話す。 ラン「怪我を直したいときは”リカバリー”と手を挙げて唱えれば残りの魔力に応じて回復します。しかし、一日に一度しか使用できないので注意してください」 サジノスケ「なるほど、デリバリーか」  サジノスケの酷い聞き間違いにリングは呆れたが、いつも通りの彼に少し安心する。 ラン「お風呂はないので体の汚れを落としたいときは近くの村や町を利用すると良いでしょう。近くに何もない時は、”クリア”と手を挙げて唱えれば身体を清潔に保つことができます。こちらも1日1回しか使用できません」 サジノスケ「ふむふむ、バリアね」  サジノスケは相変わらず頭の悪い独り言を言っているが、リングは無視した。いや、正確には別の少年をジッと見つめ、サジノスケの言葉など入って来ていないのだ。  リングが見つめている少年は、彼女の右斜め前に座っている。少年の名前は春日(かすが)シイ。  彼も同じクラスで、同学年の男子生徒の中では一番身長が高く、魔法の実力も高い。黒髪のストレートヘアに無表情でぶっきらぼうな態度。いつも一人で過ごしているのが特徴だ。謎めいた彼の魅力に取りつかれる女子生徒は多く、リングもその一人だ。 ラン「本日の12時~16時までの4時間、”登竜門”は開門します。その間に出発するように。16時を過ぎても出発しない者は強制失格となります」 (いよいよ始まるんだ…)  説明会は終わり、リングはより緊張する。一同は解散し、教室に留まる者もいれば、離れる者もいた。同級生と別れの挨拶を泣きながら交わす者もおり、各々が自由に過ごしている。
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