一章

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「……ねぇ薫」 「うん?」 「サボるのってやっぱり悪い事なのかな?」  先程までわらっていた霞の表情はコロっと変わり、真剣な表情で僕の目を見て、そう質問してくる。  そんな霞の雰囲気に振り回されながらも、僕は体勢を戻して彼女の質問に答える。 「そりゃ、良い事では無いんだろうな」 「どうして? 今だってこうして楽しめたじゃん。何が駄目なの?」 「僕も楽しんでいた手前、駄目だなんて言えないけど。やっぱり問題なのは、僕達がやるべき事もしないで楽しんでいるから、傍から見たら楽をしていると思われる事じゃないのか?」 「楽かぁ……確かに薫の言う通りだと思うけど、でもやっぱり私はサボることで得られる事もあると思うんだ……例えばほらこんな風に」  霞は意味深に言葉を止めると、僕の顔を指さしながら無邪気な笑顔を浮かべる。 「まあ、それに関しては同意見だけど、でもそれはきっと僕達みたいに実感した人間にしか分からない事だろ」  僕は霞の行動に若干の恥ずかしさを覚えて、彼女の手を取ってゆっくりと下に下げながら話すと、彼女は何かを納得した様にボソッと小さい声を零す。 「そっか……分かってもらえればいいのか……」 「えっと?」 「そうだよね。よし! いい事考えた!」  僕の疑問の声に聴く耳を持たない霞は、勢いよくベンチから立ち上がるとクルリと振り返って僕の方に手を伸ばしてくる。 「学校行こ!」 「ちょっ! ちょっと待てって! どうしたんだよ急に」 「? 待ってるじゃん、ほら」  先程までゆっくりと空を見ていた筈なのに、1人で何かを納得してしまった霞は、早る気持ちを隠そうともしないで、僕の目の前に差し出した手を分かりやすく大きく揺らす。 「そうじゃなくて説明をだな……ってうわ!」 「もう! ほら行くよ」  霞は待つと言ったにも関わらず、僕の手を無理やり掴み、思い切り引っ張って僕を立ち上がらせると、その手を取ったまま、学校の方へと歩き始めてしまう。 「待ってくれるんじゃなかったのかよ」 「もう待った!」  僕が渋っていたせいか、霞は苛立った様子で、僕の手を引きながら速足でどんどん歩いて行ってしまう。 「ああ……まだ、学校での言い訳も考えてないのに」 「寝坊で良いんじゃない? さっきまで寝転んでたわけだし」 「それもそうか」  女の子に手を引かれているというのに全くドキドキしない僕が軽口を叩くと、少し前を歩く霞が小さく笑った顔を見せるが、その声は1時間目の終わりを告げるチャイムで溶けて無くなった。
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