一章

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2  急ぎ足のまま公園を出る霞と、引っ張られて歩く僕は、しばらくの間言葉を交わさなかったが、校門前の大通りに入ると、霞は歩く速度を急に落として僕に話しかけてくる。 「薫ってもしかしてサボり馴れてない?」 「もしかしなくてもそうだな。今日が初めてだよ」 「うーん……説得力足りるかな」  霞はそう言うと、空いた左手を口元に当てて何やら真剣に考え込んでしまうが、僕にはそれ以前に聞きたいことがあった。 「霞、もうそろそろ説明してくれないか?」 「それもそうだね。学校に着いたら一緒に説明しようと思ってたけど、薫の事情もあるだろうし」  霞は先程までとは違い、時間を置いて落ち着いたのか、やっと僕の質問に答えようと掴んだ手を放して足を止め、勢いよく体をこちらに向けて笑顔を見せる。 「私と一緒に部活しない?」 「……見ての通り僕は運動が苦手だぞ」  白い光に当てられた彼女の姿に、少しの間だけ目を奪われてしまったが、僕はそれを悟られないようにと平常を装って言葉を返す。 「大丈夫だって、薫にそれは求めてないから。そうじゃなくて、新しく部活を作ろうと思ってね」 「作る?」 「そう。その名もサボ部!」 「……」  自信満々に告げる霞の顔に、僕はじっと目線を注いで無言の抗議をすると、流石の霞も恥ずかしくなってきた様で、姿勢はキープしたまま目線だけを泳がせる。 「まあ、部活の名前は後でもいいとして、私と一緒に部活してみない? ……もしかしてどこかの部活にもう入ってるとか言う?」 「いや。中学の途中から部活には入ってないし、時間の拘束がある訳じゃないけど」 「けど?」 「霞の部活が何をするのか分かってないからな」 「それは大丈夫。誰でも無い私と薫の為の部活だから! それじゃ遅刻届出すついでに、部活の申請もしに行こう!」  霞は元気よく声を上げると、また僕の質問をはぐらかして先を歩いて行ってしまう。  ただ、そんな彼女に振り回されているせいか、先程まで感じていた筈の気怠さを忘れ始めていて、僕は何故だか嫌な気に成れずに足を動かし始めた。
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