イマジナリー

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中学生の時の話。 夏の外体育で日差しがだるかったので木陰でこっそりサボっていたら、ハゲの体育教師に見つかって激しく叱責された。体力がない根性がないうんたらかんたら、そいつは体育教師のくせに国語教師並みに話が長かった。その学期末、授業アンケート的なやつで自由記入欄があったので、「マラソンの授業の時、熱射病の危険を感じたので木陰で休んでいたら叱られました。私は人間のクズだと思いました。」と書いた。アンケートのくせに匿名ではなかったので、後日担任に呼び出されて書き直せと命じられた。職員室の担任教師の机を借りて「バレーの授業が楽しかったです。」と書き直していたところ、担任教師がこんなことを言った。 「やっぱりお姉さんとそっくりねえ、あなた。アンケートでふざけるのも、その微妙に違うペンの持ち方も」 ペンの持ち方はがおかしいと思ったことはない。はて、これは持ち方はではないのか。 思案しかけていると担任教師は、引き出しを開けてペンを取り出した。 「これね、あなたのお姉さんが忘れてったものなの。もうインクもないし、正直捨てちゃおうと思ってたんだけど、こういう人形が付いてるものってどうにも捨てにくくて。それに人のものだし。折角だしお姉さんに返してちょうだい」 と渡されたペンはボールペンで、緑と黄色の渦巻き柄のプラスチックと布の中間みたいな手触りだった。てっぺんには円な瞳とデカい口を持つ謎のウサギが乗っていた。「ブートゥー人形卯年バージョン」といった感じの風体で、贔屓目に見ても可愛いとは言い難かった。 その後部活を控えていたので、私は早々に職員室を辞した。ペンはブレザーのポケットに放置され、クリーニングに出す際に再度発見された。現在では「思い出ボックス」という名の長期保存用ゴミ箱に放りっぱなしである。 私に姉はいないのだ。
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