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出産
天地開闢の時、つまり天地の始まりの時、天の高天原に最初に成りました三神を、造化三神と呼ぶ。高天原では最も古株の神である。
次いで成りました二神と五組の男女神を、神代七代と呼ぶ。
伊邪那岐命と伊邪那美命は神代七代の最終組として成りました。
造化三神から、下界に国土を造るよう命じられた伊邪那岐と伊邪那美は、天浮橋に立った。下界に広がる混沌とした海に天沼矛降ろし、掻き混ぜた。
引き上げた矛からしたたる潮で、最初の島を造った。
その島に降り立った伊邪那岐と伊邪那美は、次々と国を産んだ。
国を造った後に、次々と国つ神を産んだ。
国産み、神産みと呼ぶ。
造りたての不安定な国土を整えようと、自然神を産んだ。
海神・河口の神・風の神・木の神・山の神・野の神。
自然神は神力が高い。邇邇芸命の義理の父となった大山津見神も、この時に生まれた自然神の一人、山の神である。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、家屋神や生産神など二十四の神々も産んで、国土を安定させた。
地の成り立ちについては、高天原で生まれ育った若い世代の邇邇芸命も、承知していた。
邇邇芸命が初めて知り得たのは、天上界と地上界の決定的な違いであった。
先日、思金神から説明を受けた。
伊邪那岐と伊邪那美の神生みで誕生した国つ神は、もともと神力に差があった。
神力の弱き国つ神同士が契らば、その子どもに受け継がれる神力が弱いは必然である。
その弱い神力を受け継ぐ子同士が契るとなれば、さらに力は薄れていく。
地上では代を重ねるごとに、弱力神が増えていた。
やがて、神力を失った国つ神を人と、呼び分けるようになった。
これが天と地の決定的な違いだ。
天の高天原には、人は存在しない。
人は、少々のことで病になり、怪我をし、命を落とすと云う。
知恵や体力においても神に劣り、第六感は消滅していた。
思金の見立てでは、やがて地上は人で溢れる。
邇邇芸命は、地上に平和と繁栄をもたらす使命を、天照大御神から命じられた。
この先、恩恵の対象に人を含めるとなると、検討案件は尽きない。
その上、この地を永久的に見守ることが出来ぬと運命づけれらた。
(我が使命を託す御子を得るは、早いに越したことはない)と邇邇芸命は、独り言ちた。
石長比売の一件以来、連日の打ち合わせ、及び視察が行われていた。
木花之佐久夜毘売を訪ねそびれている。
輿入れの日に契ったきりだ。
あの美しい佐久夜に、御子を宿してもらわねば。
邇邇芸命は、執務室に集っている天つ神をあらためて見回した。
先ほどから、円卓を囲みあれやこれやと知恵を出し合っている。
天岩戸別神を除いた、思金神、天児屋命、布刀玉命、天宇受売命、天手力男命、伊斯許理度売命と玉祖命の七神だ。
天つ神だけに、連日の会議や視察にも全く疲労の色を見ない。
邇邇芸命は、おもむろに立ち上がった。
七神は(何事か)と、邇邇芸命を見上げた。
「先日、天宇受売が申したように、子を作るは急務である。ワレにその時間を与えよ」
言うや早いか、執務室を後にした。
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