許婚

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 皆は呆れ顔をしたが、一理ある。  山幸彦の美に対するこだわりは、邇邇芸命(ニニギノミコト)(ゆず)りのようだ。  なれば、父親の懸念を重んじるべきであろう。  それぞれが黙して、相応(そうおう)の待遇を再び考え始めた。  知恵の神と言われる思金神(オモイカネノカミ)は、良き案を思いついたようだ。  しかし、口にするのを躊躇(ためら)っていた。 「思金は何か案があるのではないか?」  言霊(ことだま)を操る天児屋命(アメノコヤネノミコト)が、思金の様子に気付き、促した。  躊躇する思金に、邇邇芸命も「聞かせよ」と言った。  思金が口を開いた。 「山幸彦の赤子の名は、何と申したか」 「ウガヤフキアエズだ。()の羽の屋根が()きおわる前に生まれたことで、命名された」  無論、思金は承知していたが、言いにくい話の導入として尋ねた。 「玉依毘売(タマヨリビメ)をウガヤフキアエズの許嫁(いいなずけ)として、迎えてはどうか」 「えぇ?」 「なんと」 「赤子の許嫁にするのか」  一同は身体を後ろに引いた。  思金の説明が始まると、徐々に身を乗り出した。  歳の差が気になるは、今だけのこと。  すぐに成長神となり、釣り合いがとれる。  玉依毘売は、海神・綿津見神の娘であり、正妻として神格的に不都合はない。  綿津見神も納得するだろう。    幼き頃よりウガヤフキアエズが、玉依毘売の仮の姿を目にしておれば、すんなりと受け入れるはずだ。  恐れはしまい。  執務室に集う天つ神らは、思金の説明を聞くうちに、それが最善の策と思うに至った。  一同の視線が邇邇芸命に向いた。  邇邇芸命が了解すれば、玉依毘売(タマヨリビメ)はウガヤフキアエズの許嫁(いいなずけ)として迎えられる。  邇邇芸命は「よかろう」と頷いた。 「綿津見神(ワタツミノカミ)の娘、玉依毘売(タマヨリビメ)をウガヤフキアエズの許嫁として、高千穂宮へ迎えよう。幸あれ!」  言霊を操る天児屋命(アメノコヤネノミコト)が、声高らかに宣言した。  
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