神代最後の恋物語

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 小さかったウガヤフキアエズも、身の(たけ)玉依毘売(タマヨリビメ)を超えた。  元服(げんぷく)を迎え、祖父・邇邇芸命(ニニギノミコト)が所有する三種の神器の一つ、八咫鏡(やたのかがみ)を通して、高天原の天照大御神へのも滞りなく終わった。  玉依毘売は許嫁(いいなずけ)であっても、この式に参加することは許されない。  天照大御神の血統でない者は、その地位に関わらず、天照大御神のご尊顔を拝することは出来ぬことになっていた。  また、ウガヤフキアエズが天照大御神から(たまわ)ったお言葉についても、尋ねぬことになっていた。  元服を終えた御子は、成長神として務めを果たさねばならない。  ウガヤフキアエズも天つ神として、国を繁栄させ安定させる務めを(にな)い、高千穂宮を留守にする日も増えた。  玉依はこれまでウガヤフキアエズを常に思い、動き、共に暮らしていた。  会えぬ日が続くと、なんとも落ち着かない。 「ワタクシはどうしてしまったの」  この気持ちが肉親の情からくるのか、異性に対する愛なのか混乱した。  何カ月ぶりに、ウガヤフキアエズが地方巡回から高千穂宮へ戻ってきた。  邇邇芸命及び思金神(オモイカネノカミ)ら執行部に報告を済ませると、息せき切って玉依毘売の居室を訪れた。  どうやら、ウガヤフキアエズも玉依毘売と同じく、落ち着かなかったようだ。  居室内に入るや、後ろ手に扉を閉めると、挨拶もそこそこに玉依を抱きしめた。 「ただいま戻った」 「お帰りなさいませ。お会いしとうございました」 「ワレの方が、ソナタよりも会いたい心が強かったはずだ」  負けじと、ウガヤフキアエズが告げる。  すっかり身の(たけ)大きくなった御子の背を、玉依は回した腕でそっと撫でた。 「玉依は、ワレの妻なのであろう?」 「左様で御座います」  ウガヤフキアエズは玉依を寝台に横たえると、「ワレほどの果報者はおらぬ」と己の体を重ねた。  この日、玉依とウガヤフキアエズは、初めて夫婦としての契りを交わした。  玉依毘売はウガヤフキアエズの御子を宿した。  海辺に設けた産屋に海水を引き入れ、海蛇神の姿で赤子を産んだ。    幼少時より、海蛇神の姿も目にして育ったウガヤフキアエズは、当然のこととして、驚いたり恐れたりしなかった。  夫婦の間に生まれた四御子のうち、末の御子が 「天孫の意向が遠い国へ届いていない」  と、 高千穂宮から東方を目指して進軍するのは、まだまだ先のことだ。  この第四御子は、奈良(なら)橿原(かしはら)の地で初代天皇として即位する。  神武(じんむ)天皇の誕生であった。  後の明治政府は、神武天皇の即位日を西暦に換算し、紀元前660年2月11日と特定し、日本の建国の日と認定した。  2 月11日は、令和の現在も「建国記念日」として国民 の祝日となっている。    神武天皇以降は、からへと以降する。  玉依毘売がウガヤフキアエズと結ばれしは、神代(かみよ)最後の恋物語となった。  高千穂での神話物語も、ひとまず幕を降ろすとしたい。         ーーー 完 ーーー  
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