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天の策
高天原では、大事の決定は合議制による。
天照大御神は、古参の八百万の神をないがしろにせず、年長者の経験や知恵を尊ぶ。
今回の会合には、次代を担うと期待される若い神々も顔を揃えていた。
大国主命より地上の中つ国を譲り受けた。これより先、天上界の天照大御神は地上界も統治する。
地上に降りて政を行う代行者は、天照大御神の孫である邇邇芸命に決定されていた。
新たな地を円滑に統治するには、権威主義的な体制は有効であり、ある程度の差別化は必要悪である。
天照大御神の偉大さを印象付け、天照大御神直系の孫による統治を光栄であると、信じ込ませる。いわゆる、洗脳だ。
具体的な方法について、話し合われる。
会合は、「芙蓉の間」で開かれた。
神殿内で最も広い間であり、天井及び四方を囲む襖上の壁貼付絵は、趣向が凝らされている。
芙蓉の間の障壁画は、青空で統一されていた。襖の下部には連なる山々や飛翔する鳥類が描かれていた。
室内に居ながらにして、無限の空間を味わえる趣向が施されていた。
上座に置かれた天照大御神の御座は、緋色の絹で織られた布で覆われている。青空に輝く太陽を表していた。
御座を中心に半円を描くように、八百万の神々に用意された席は、ひじ掛け付きの座椅子であった。
雲を模してあり、純白の絹で織られた布で覆われている。
急ごしらえの若い神々の座椅子は、空と見紛う障壁画前に並べられていた。
諸々の案が出される中で、天照大御神が眉をひそめたのは、遥か昔の出来事が若い神の口に上がったからだ。
天岩戸開き
天照大御神にとっては、若きの日の過ちであり、忌々しい過去である。
弟・須佐之男命に業を煮やした天照大御神が、天岩屋に籠った一件だ。
姉弟喧嘩は大勢の神々の手を煩わせる結果となった。
天照大御神は咳払いを一つして、尋ねた。
「遥か昔に、そのような事もあったかの。果たして、それが権威付けとなろうか」
発案者である思金神を、軽く睨みつけた。
思金神は、高御産巣日神の息子である。
高御産巣日神は、混沌とした世界が天と地に分かれし時、天上の高天原に最初に現れた造化三神の一神である。
天照大御神が高天原を統治し始めた頃より、相談役を兼ね、実質的に政を担っていた。
本日の会合においても、高御産巣日が進行役を務めている。
息子の思金は、いずれは高天原の政を担うであろうと、期待される神であった。
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