天の策

1/3

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

天の策

 高天原(たかまのはら)では、大事の決定は合議制による。  天照大御神(アマテラスオオミカミ)は、古参の八百万(やおよろず)の神をないがしろにせず、年長者の経験や知恵を尊ぶ。  今回の会合には、次代を担うと期待される若い神々も顔を揃えていた。  大国主命(オオクニヌシノミコト)より地上の(なか)つ国を譲り受けた。これより先、天上界の天照大御神は地上界も統治する。  地上に降りて(まつりこと)を行う代行者は、天照大御神の孫である邇邇芸命(ニニギノミコト)に決定されていた。  新たな地を円滑に統治するには、権威主義的な体制は有効であり、ある程度の差別化は必要悪である。  天照大御神の偉大さを印象付け、天照大御神直系の孫による統治を光栄であると、信じ込ませる。いわゆる、洗脳だ。  具体的な方法について、話し合われる。  会合は、「芙蓉の間」で開かれた。  神殿内で最も広い間であり、天井及び四方を囲む(ふすま)上の壁貼付絵は、趣向が凝らされている。  芙蓉の間の障壁画は、青空で統一されていた。襖の下部には連なる山々や飛翔する鳥類が描かれていた。  室内に居ながらにして、無限の空間を味わえる趣向が施されていた。    上座に置かれた天照大御神の御座は、緋色(ひいろ)の絹で織られた布で覆われている。青空に輝く太陽を表していた。  御座を中心に半円を描くように、八百万(やおよろず)の神々に用意された席は、ひじ掛け付きの座椅子であった。  雲を模してあり、純白の絹で織られた布で覆われている。  急ごしらえの若い神々の座椅子は、空と見紛う障壁画前に並べられていた。    諸々の案が出される中で、天照大御神が眉をひそめたのは、遥か昔の出来事が若い神の口に上がったからだ。  天岩戸(あまいわと)開き   天照大御神にとっては、若きの日の過ちであり、忌々しい過去である。  弟・須佐之男命(スサノオノミコト)に業を煮やした天照大御神が、天岩屋(あまいわや)に籠った一件だ。  姉弟喧嘩は大勢の神々の手を煩わせる結果となった。    天照大御神は咳払いを一つして、尋ねた。 「遥か昔に、そのような事もあったかの。果たして、それが権威付けとなろうか」  発案者である思金神(オモイカネノカミ)を、軽く睨みつけた。  思金神(オモイカネノカミ)は、高御産巣日神(タカミムスビノカミ)の息子である。  高御産巣日神(タカミムスビノカミ)は、混沌とした世界が天と地に分かれし時、天上の高天原に最初に現れた造化三神(ぞうかさんしん)の一神である。  天照大御神が高天原を統治し始めた頃より、相談役を兼ね、実質的に(まつりごと)を担っていた。  本日の会合においても、高御産巣日が進行役を務めている。  息子の思金は、いずれは高天原の(まつりごと)を担うであろうと、期待される神であった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加