天の策

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 天照大御神の権威の印象付けを『天岩戸開き』を主題として展開することが、満場一致で決まった。    これを受けて、邇邇芸命(ニニギノミコト)に随行する側近は、天岩屋複製建造に携わる神々を選んだ。  思金神(オモイカネノカミ)を筆頭に、天児屋命(アメノコヤネノミコト)布刀玉命(フトタマノミコト)天宇受売命(アマノウズメノミコト)は、外せない。  加えて、高天原で怪力において右にでる者のない神天手力男命(アメノタヂカラオノミコト)八咫鏡(やたのかがみ)を作成した伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を作成した玉祖命(タマノオヤノミコト)を合わせた七神が確定した。  思金が、邇邇芸命に下賜(かし)する品について話題を向けた。地上における天照大御神の孫に、象徴となりうる宝を授けることを薦めた。 「八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を授けよう。天岩戸開きに関係することもあるが、どちらも稀なる品であり、神器として申し分なかろう」  天照大御神の提案に、高御産巣日神(タカミムスビノカミ)が付け加えた。 「須佐之男(スサノオ)が献上した草薙剣(くさなぎのつるぎ)を加えて、三種の神器とすれば、響きもよい」  草薙剣は、須佐之男命が退治した八俣の大蛇の尾から切り取った剣だ。天岩屋騒動の謝罪として、須佐之男から天照大御神に献上された。  思金は、「須佐之男命からの献上品を加えるとは、名案です。天照大御神へ服従した(あかし)にもなりましょう」と頷いた。 「思金は、知恵がまわるの」と、天照大御神は呆れ顔で(つぶや)き、高御産巣日は呵呵(かか)と笑った。  邇邇芸命に下賜する三種の神器が決まった。真名井の水を玉にして地上に降ろし、神水とすることも決まった。  詳細の摺り合せがあらかた済んだ頃、高御産巣日が「これはしたり」と唸った。 「何かあるか?高御産巣日」  天照大御神の問いに、高御産巣日は眉根を寄せて言った。 「随行が七神とは(きり)が悪い。やはり、ここは八神にするべきであろう」  天照大御神と思金は、高御産巣日の次の言葉を待った。 「ワレが共に参ろう」  高御産巣日は、(おのれ)も随行すると申し出た。  高御産巣日は以前より、ひそかに随行を目論(もくろ)んでいた。降臨する神として邇邇芸命を強く推したのも、その腹積もりがあったからだ。  邇邇芸命は天照大御神の息子と高御産巣日の娘の間に生まれた子だ。 天照大御神の内孫であり、高御産巣日にとっては外孫である。  孫を傀儡(かいらい)として、新たな国を思い通りに動かすつもりだった。  父にそのような思惑があったと思い及ばぬ思金は、息子では頼りにならぬとの意と受け取り、愕然とした。 「父上、どうぞワレを信じてお任せ下され」  高御産巣日は打ちのめされた様子の思金に、慌てて否定した。 「そういうことではない。思金がどうこうではない。邇邇芸命はまだ若いゆえ・・・・・・」 「厳しいと恐れられる高御産巣日神の言葉とは、思えぬの。孫には甘いか」と、天照大御神は呑気に笑った。 「邇邇芸命を心配する気持ちは、有難く受け取った。高御産巣日は高天原にとって無くてはならぬ神だ。高天原を留守にしてはならぬ」   天照大御神の言葉は、最終的な決定権を持つ。  高御産巣日は天照大御神に目礼をした。  あらかじめ思金に打ち明けて置かなかったことを悔やんだが、こうなっては、天照大御神の意を受け入れる(ほか)なかった。  高御産巣日神の代わりに、天岩戸別神(アマイワトワケノカミ)を加えた八神が、邇邇芸命に随行すると正式に決定した。  
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