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天手力男命は、素早く邇邇芸命の前に立った。身動き取れずに棒立ちになったままの邇邇芸命を、その大きな体で隠した。
言霊に神力を籠める天児屋命が、邇邇芸命の耳元で何か呟くと、ほどなく呪詛から解放され、動けるようになった。
「天孫と知った上での狼藉か!」と、いきり立つ思金神の腕を抑えて、天宇受売命が前に出た。
「ワタクシにお任せあれ、思金」
天宇受売は、上衣を脱ぐとフワリと宙に放り投げた。
長鼻男の視線が、一瞬そちらに向けられ、邪視が中断された。
その一瞬の間に、天宇受売は長鼻男の目前に立った。上衣を脱いだため、豊かな乳房が露わになっていた。
邇邇芸命は、天宇受売のあられもない姿に仰天した。
天宇受売は露わになった豊かな乳房を、あたかも拍子を刻むように揺らし始めた。
顎を引いては上目遣いに、頭を仰け反らせては下目遣いに、顔を横に向けては流し目に、相手の目を見つめたままで乳房を激しく揺らし続けている。
邇邇芸命は「な、何としたことだ」と随行する神に目を向け、さらに驚いた。
皆一様に真剣な眼差しを注いでいたからだ。驚く神も、鼻の下を伸ばす神もいない。
眼光鋭く睨みつける長鼻男と、乳房を揺らしながら踊る女神から目を離さず、思金が言った。
「この勝負、天宇受売が勝ちますぞ」
(戦っているのか・・・・・・)
邇邇芸命は、「分かっておる」と慌てて頷いた。
長鼻男の視線は天宇受売の両眼から外れ、上下左右に揺れる豊かな両乳房に注がれた。
すると、長鼻男の赤眼が徐々に白くなっていった。
力の籠らぬ目が、宙をさまよった。
思金の予想通りの結果だった。
集中を切らした長鼻男は、潔く負けを認めた。
勝負が決まると、宙を舞っていた上衣が天宇受売の手元へ落ちてきた。素早く袖を通し、前を合わせて乳房を覆い、邇邇芸命を振り返った。
「若、ご安心くだされ」
子を守り抜いた母のような笑顔を向けた。
長鼻男は、地上の国つ神であった。猿田彦命と名乗った。
天から降る新たな統治者一行を、この場で阻止するつもりであったと白状した。
勝負に敗れた猿田彦は、邇邇芸命に仕える誓いを立て、自ら進んで道案内を申し出た。
邇邇芸命が随行の神に視線を走らせると、皆が頷いていた。
「猿田彦。道案内をせよ」
邇邇芸命は猿田彦に命じた。
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