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そんな気持ちの凹みが、災いをもたらした。
調理器のから熱く灼けた鉄板を取り出す際、最も注意しなければならないのは、火傷だ。二〇〇度の高温にさらされた鉄板を、もちろん素手で掴むわけにはいかない。ミトンと呼ばれる分厚い耐熱性の鍋掴みを使うのだが、使えば使うほど劣化して、耐性が悪くなる。厚手の生地が炎熱ですり減っていたのだ。
「あつう!!」
恐ろしい熱さが美優の手のひらを襲った。熱さを通り越した激痛に、鉄板が手から離れ、落下していった。
派手な音がして、焼き鳥が床に飛び散った。
手が滑ったとか、鉄板の置き方が悪かったとか、言い訳はいろいろあるかもしれない。それは自分のミスだったと、素直に認めることもできる。しかし、ミトンが破れていれば、話は別だ。
「あーあ。何やってんだ!」社員の副島が怒鳴った。「三〇本もロスにしやがって。片付けて、サッサと焼き直せや! ったく!」
「すいません、すいません・・・」
美優はかがみ込み、四散した焼き鳥を拾った。
せっかく焼いたのに・・・鳥が食べられずに捨てられてしまうのだ。鳥さん、ごめんなさい・・・
「あらあら、藤木さん、またヘマやったの? ちゃんと気をつけてないから、そうなるんでしょ?」
加瀬加奈子の尖がった声が追い打ちをかける。
「すいません、すいません・・・」
美優は情けない気持ちでパンクしそうだった。
手が痛い・・・ふと、視線を手のひらを見ると、蚯蚓腫れの火傷ができていた。冷やさなくては・・・でも、床の片付けの方が優先だった。その次は焼き鳥を焼かなければならない。
めまいのような絶望を覚えた。
誰も助けてくれなかった。
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