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月見橋は市内を流れる川の鉄橋である。隣町とつなぐ主要道路にもなっているが、花火大会当日は夕方から深夜まで、緊急車両と許可車両を除いて通行止めになっている。今の時間帯は、歩行者天国として開放されていた。
そういうわけで、月見橋周辺は待ち合わせ場所にするにはかっこうの目印だった。
欄干から見下ろすと、桟敷席や椅子席が土手一杯に広がり、行き交う人たちで溢れかえっている。立ち並ぶ屋台からは旨そうな食べ物の匂いが、煙のように立ち込めていた。まだ陽は高いのに、テンションの上がった見物客たちが絶景ポジションを求めて、歩き回っているさまは何とも壮観だった。
自分もその一人なんだと思うと、職場での不快な思いを忘れて、可笑しさがこみあげてくる。友だちと一緒にはしゃげば気分も楽になだろうし、火傷の痛みもまぎれると思った。
背伸びしながら人混みの奥へ眼を凝らした。
由紀と瑠理香はすぐに見つかった。
二人とも涼し気な浴衣を着て、和柄の可愛いらしいポシェットを首からぶら下げていた。
「おっす」
「すっごい混んでるねえ」
由紀たちがにこにこしながら美優を囲む。美優も軽口を返す。
「さっきまで仕事だったんよ。ずーっと焼き鳥、焼いてた」
「そうなん? おつかれー。ほれ、さっき美優んとこのスーパー行って、焼き鳥たくさん買ってきたよー」
由紀がレジ袋を高々を上げた。
美優は、二人の華やかな姿を目の当たりにして顔を曇らせた。美優も浴衣を持っていないわけでないけれど、一人暮らしの部屋で一人でメークし浴衣を羽織って・・・そこまで気分が乗らなかったも事実だった。それに焼き鳥タレの沁み込んだ身体に(シャワーを浴びていたとしても)、袖を通すのは躊躇われた。
三人でワイワイやって、途切れた瞬間があって、瑠理香が不意に口調を変えた。
「あのさあ、実は連れがいるんだよねえ・・・」
「連れ?」
「あのさあ、花火大会じゃん? だから、いっしょなんだよね、ゴメン」
「え、まさかカレシさんとか」
「ビンゴ。でもさあ、五人で楽しもうよ!」
五人? じゃあ、由紀にも? 美優はこちらの近づいてくる二人の若い男に気づいた。どちらも黒っぽい浴衣を粋に着こなした、明るそうなイケメンだった。
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