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1.魔女の住む港街
今よりも少し昔。船がまだ汽船だったころのお話。
ここは地中海に面したヨーロッパの港街。貨物船や客船が定期的に入ってきて、各種貿易や人々の出入りでにぎやかなところです。
この街の港に近い公園から商店街に伸びる大通りでは、毎日市場が開かれていて、多くの買い物客でにぎわっています。
そんな中、露店の一番隅っこに、まだ若い魔女の姿がありました。
魔女は他の商人が構えているような露店を持っているわけでもなく、一番隅の人の露店の隣に小さな箱を置き、その箱の前に座っているだけのようです。
が、よく見ると、その小さな箱の上には奇麗な縦長の小ビンに入ったポーションが並べられていて、それが売り物のようでした。
魔女が住んでいる所は、街から数キロ離れた岬の崖上にある家で、魔女は数日に一度、ロバを引いて市場にポーションを売りに来ていました。
露店にいる間はロバを近くの木に繋いでいましたが、そのロバは人に良くなついていて、子供らがよく一緒に遊んだりしています。
最初ここで魔女が商売を始めたころ、他の商人からはクレームが出ていました。店舗を出すにはお金を払って場所を借りなければいけなかったからです。
ところがこの魔女の売るポーションは安いのに病気や怪我に良く効くと、とても人気があったことや、店を出す場所も狭かったので、そのうちみんな、「もういいか」ってなってしまい、魔女はこうしてここの景色の一部となりました。
隣にいた露天商は、魔女が来た頃は若い夫婦が二人で仲良く商売をしていましたが、今では頭も禿げ上がり、体も弱ってきたため、店を息子に譲りました。
その露天商の息子は、
「魔女さんは僕が小さいころからここにいるのに、ゼンゼン歳を取らないなあ。言い伝えは本当だったんだね」
そう言って話しかけましたが、魔女は前を向いたままで、何も答えませんでした…
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