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「あァ、多分それ俺たちとおなじで連れてこられた奴ら。……俺らもああやって転がってたからさ。知らんけど」
「知らんけど、ってて何か良い言葉ですよねぇ。無責任な響きで」
男は特に意味はありませんよ、と呟いて考え込んだ。言葉の節々に棘を感じる。だがこんな状況でも冷静なようで、表情は変わらない。
「……失礼ですが、あなた達が誘拐犯という線が私から見ると一番濃いように思えるのですが」
第1発見者が犯人だったなんて事件は五万とある話だ。けど俺はそんな事していないし、その線で言ったら球太が犯人になってしまう。.......いや無いだろ。
「いやいや、オレ違うよ!?」
球太が慌てて言った。そうだよな。こいつにそんな頭使うこと出来るとは思えないし。
「冗談です。あなたがたがそこまでの知能を持ち合わせているとは思えません」
男が笑みを浮かべて言う。
「あんま面白くねェ冗談だな.......」
球太は安心したように息を吐いた。.......冗談というか本音を冗談めかして誤魔化したとしか思えない。ついでのようにディスられたし。
「……これからどうしましょうか。」
「とりあえず、ここがどこか調べるべきでしょうね。携帯は……まあ没収されてますよね。どうにかして警察を呼ぶべきです。取り敢えず間抜け顔ですっ転がってる皆さんを起こしてあげましょう」
自分のポケットも確認する。あったはずの固い膨らみは無くなっていた。まあ誘拐犯がそんなドジをやらかすとも思えないが。
美丈夫はまだ頭が朦朧としているらしく、立ち上がろうとした時よろけた。
「大丈夫ですか。まだ無理しないで」
俺はよろけた彼の腕を掴んだ。その時気づいたのだが、彼は左眼の下に泣きぼくろがあった。
「おいおい大丈夫かよ、どこか痛むのか?」
「っ、……ええ。ありがとうございます。大丈夫です。何か立ちくらみがするみたいで」
彼はそう言って手を離した。
「そういえば名前、言ってなかったですよね。俺は山田はじめ、こっちは同じ大学の友人、砂浜球太です。」
「いや友人じゃなくてソウルメイトなァ」
球太が覗き込んで訂正してくる。目の前に近づいた顔を手で払うと、球太は鼻を鳴らして笑った。
「これはまあ、仲が良ろしいのは結構なことで。私は雪話龍之介と申します。」
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