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「龍之介サン、俺のことはキューちゃんって呼んでねェ」
雪話さんは苦笑いしている。球太みたいなノリは少し苦手みたいだ。慣れるまでは俺も同じだったからちょっと分かる。雪話さん、案外気が合うかもしれないな。それにしても雪話龍之介……なんか聞いたことあるような……
「ン?.......あ!雪話龍之介って……『羅生城』の作者の人っすか?!」
球太も気づいたようで、大きな声を上げる。ザ・体育会系みたいなナリだが、こいつは意外と読書家だったな。
「ええ、一応」
「マジかよ!?あ、あの、サインとか貰えたりします?!」
球太が興奮気味に言う。急に取ってつけたような敬語で話すのに少し笑った。
「いえ、構いませんが、この状きょ……」
「やったー!!俺ファンなんスよ!!いやぁ、まさかこんなところで会えるなんてなァ、俺の運もまだまだ捨てたもんじゃないぜ」
球太が大喜びしている。……良かったな。雪話さんは滅茶苦茶苦笑いしているけど。俺は特に読書家って訳じゃない。それでも知ってる位だから、結構な大作家だ。顔出しはしていなかったが、こんなに若い人だったとは。でもこんな凄い人がなんでここに……?
「……球太、今はそういうの後にしろ。あー、雪話さんは昨日のこと覚えてます?俺は全く分かんなくて……ここに連れて来られた経緯とか」
「私も全く分からないんですよ。確か……仕事を終えて帰ろうとしていたところまでは覚えているのですが……そこから記憶がないですね」
「俺もだ。朝起きたらここで目が覚めてた」
球太も同意する。やっぱり俺たちは何者かによって誘拐されたらしい。一体なんのために……?
「あー、横からすみません。自分もそうなんですが.......」
急に後ろから声が聞こえて驚く。振り向くと、警官の制服を着た人が立っていた。
「あ、いえ、自分は怪しいものでは……いや、この状況なら誰でも怪しいですかね……、あ、そうでした。ええと、私は御廻刑治というしがない警察官でして……」
なんだかオドオドした感じの人だ。歳は20代後半くらいだろうか。髪は短めの黒髪で、少し猫背。一重の目の下には薄ら隈があった。少し頼りなさげな雰囲気を纏っている。
「ああ、大丈夫ですよ。俺らもさっき起きたところなんで……。俺は山田はじめ、こっちは友人の砂浜球太です。こっちは……」
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