第三日〜昼〜

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才商さんは口角をひくつかせながら言った。普段この人にこんな口の利き方をする人なんて周りにいないんだろうな……。 「……貴方はどういう理由で自身の名前が挙げられなかったと思うのか聞いても?」 静観していた薬師丸さんが問うた。 「ええ。自分で言うのもなんですが、私は容疑者5人の中では最も“権力者”のようですからねぇ。才商さんは私に角が立つことを恐れたのでしょう。」 「な、ボクは……!!」 “権力者”か。言い得て妙だな。彼は間違いなく容疑者5人の中で最も発言を信用され、議論の流れを変えうる人物だ。彼に目をつけられたくないという心理は誰にもに働いているはず。 「そして自分の論理より媚びを売ることを優先するのは狼ですよ。何せ彼らは推理する必要など無いのですから」 才商さんは相変わらず営業スマイルを浮かべているのに、顔は真っ赤になって口角をピクピクさせていた。それを見て隣の拳坂君がおちょくっている。火に油とはこのことだな。 「私の主張はそんなところですね」 雪話さんはそう言って一瞬俺の方を見やった。 ……次は俺の番か。 「俺は雪話さんを」 挑戦的な言葉にシャンデリアが揺れたような錯覚を覚える。俺は落ち着かせるように息を吸った。 「ほう、これはまた」 雪話さんの細められた目が視界の端でぼやけている。 「……と言いたいところですが、一番は才商さんですかね」 そう言って雪話さんから才商さんにゆっくりと視線を移す。目が合ってすぐ、彼の引き攣った顔からため息が聞こえた。 「ま〜たボクなの?……全くもって、要らないモテ期だよねぇ」 「……で、何故最初私の名前を出したのですか」 苦い顔をした才商さんの方を向いていたところ、涼やかな視線が向けられる。
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