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……今の言葉は要約するとこういうことか。今現時点では皆、役職が無いただの人間だからルールに従おうとはしない。その為ルールを破った者には暴力というペナルティをチラつかせる必要があった。
しかし役職が割り当てられた瞬間、明日からは“積極的に”あるいは“自発的に”ルールを守ることになる。特に、人狼の役職の人は。
俺は思わず呟いていた。
「……人狼は思想を与えられるのか……?」
「……?どういうことだ?はじめ」
球太が小首を傾げて聞いてくる。
「いや、.......ただの独り言。それよりお前はどう思うんだ?この誘拐犯の言ってること」
「んー、ま、信用はできねーけど、ルールさえ守れば殺される心配はないってコトだよな。」
「ああ。そうなんだよな。ゲームルールはぼかして伝えてくるくせに、誘拐犯はこれだけ明確に殺戮は無い、暴力によるゲームの進行は好ましくないと言っている。つまり、これはデスゲームじゃあない。つうか芸術的だとかそうじゃないとか言ってる時点でこれはショーである可能性が高いんじゃないかな。まあ見世物っつうことだよな。依然目的は分からないけどね」
「なるほどねェ。ハ、誘拐犯はマニアックなAVでも作る気なのか?つくづく趣味が悪ィ奴らだねェ」
「おい、冗談になってねーぞ」
「わかってらァ。こんな状況、無理にだって冗談でも言わねェとやってらんねーって。」
球太は笑ったが、その表状は少し自嘲気味に見えた。
「なァ、はじめ」
球太は少しこっちを見て、目を逸らした。……球太が口ごもるなんてめずらしい。どうしたんだろう。
「これ、俺らのどっちかが人狼になっちまうってことも有り得るんだよなァ。いや、なっちまったとしても俺は抗うけどさ。」
「俺だって絶対抗うよ。」
球太は怖がっているようだった。自分が被害者になる事ではなく、加害者になることを恐れている。……こいつは昔からそういう奴だった。
「ハ、まだ俺はそんなこと有り得ねぇって思ってるけど、万が一、万が一そんな悪魔になっちまうようなゲームだったとしたら……俺ァ人狼にはなりたくねェなぁ。」
「……普通ヤられたくない、じゃないの?」
「まあどうせやられるんならお前が良いけどな!おれは!」
球太は笑いながら言う。
「はは、お前となんか俺はお断りだ。死んでも抗うね」
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