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第4話 玲理奪還作戦
演劇部一同は、玲理救出のためにティターニアの後をつけた。
花でいっぱいの夜空の下、花びらの天蓋をバックにした、ひときわ大きな花の真ん中に玲理は座らされていた。
「玲理!」
大野は花に駆け寄った。
「玲理、帰ろう」
だが、返ってきた答えは、
「嫌だ」
だった。
「帰って公演が終わったら、もうみんなと練習も公演もできない。毎日塾に行って、家でも勉強しなきゃいけないの。だから帰らない...」
水鏡の眼は虚ろだ。
「何をしているのです。人間!」
ティターニアの鋭い声が響いた。
振り向くと、大きな蝶のような水色の羽根を生やした金髪の女性がいた。
妖精の女王、ティターニアだ。
「ティターニア! 玲理を魔法で操ってるんだな? 元に戻せ」
如月が食って掛かる。
「無礼者! わたくしはそんなことはしていないわ! わたくしたち妖精の気のおかげで、本音を言っているだけよ」
「玲理!」
「レイリ―!」
クリスと玲亜が水鏡を抱きしめた。
「明るく元気に見えて、そんな思いと戦ってたのね」
「帰ろう。帰って両親を説得しよう」
「その子はわたくしのものよ! 豆の花、蜘蛛の巣、カラシ種、この者達を追い払いなさい」
女王の命令に従って、3匹の妖精が演劇部に向かって矢の雨を降らせる。
「うわぁ!」
「こいつら、俺達の世界で蛍だった奴らだ。まさか妖精だったなんて」
みんなで命からがら逃げる。
「どうしよう」
「大丈夫よ。私の勘が正しければ、もうすぐこの事態を好転させてくれるかもしれない人が来るわ」
劇の筋立てを熟知している顧問のみことがクリスを安心させる。
彼女の予想通り、紫色の羽根と髪の毛を持ち、緑色の目がクールな妖精王のオベロンと、黄緑色の服と帽子のいたずら小僧、パックが現れた。
「よいかパック、女王が眠ったら、この花の汁を目にしぼってやれ。そうすれば女王は目覚めて初めて見た者に恋をする。そやつがどんなに醜かろうが、滑稽な者でもな」
パックは言われた通り、眠った女王の目に汁をしぼった。
誰もいなくなるまで茂みに隠れていた堂前高校演劇部は、いよいよ活動を開始した。これから女王が目を覚ますのを待って、誰かに惚れさせ、玲理を返してもらおうというのだ。
「誰が行く? 明?」
「僕はちょっと恥ずかしいです」
みことに指名されて、手を前に出して左右に振りながら後ずさる。
「当然僕でしょ。まっ、僕には花の汁なんか無くてもオチない女の子はいない
けどねぇ」
竜也が気取って自分をアピールしている。
「ねえ、花の汁の効果、試してみない? 馬場とかでさ」
玲亜がいたずらっぽく笑う。
「え? なんで僕じゃないんだよ!」
「まあまあ、如月先輩。後輩に出番を譲ることも大切だと思いますよ」
なずなが如月の体を押さえた。
「じゃあ、行ってきま~す」
劇の練習前にふざけてロバになっていた樹は、今度はヒーローになれるとばかりに、スキップしながらティターニアのそばへ行った。
「ちっ、何だよ!」
なずなの羽交い絞めを振りほどき、竜也は走って行ってしまった。
「ああ、先輩!」
「ほっときなよ。あのナルシが」
玲亜がため息をついた。
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