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目が覚めたら朝になっていた。
が、バスルームを確認する気にはなれず、ヒロシはそのまま食事を済ませると、仕事に向かった。
仕事の忙しさで、人魚のことは忘れていった。
夏の夜の熱気の中、帰宅したヒロシは、どうしても全身の汗を流したくなり、バスルームに入った。
浴槽は昨夜のままだった。
フタに乗ってる重い物を降ろすと、ソーっとフタを開いてみた。
浴槽の底は、ちゃんと元に戻っていた。
「多分、諦めたのかも‥‥」
さっそく服を脱ぐと、まずシャワーで汗を落とした。
そして真水が入ったままになっていた浴槽の中へ、体を移した。
「フワー‥‥いい気持ちだ‥‥」
首まで真水の中に沈め、天井に向けて再度、フー‥‥と息を吹こうとした。
その時、伸ばしている足のあたりで、何やら変な渦を感じ、ん? と視線を向けた。
瞬間、呆然とした。――人魚がいたのだ。
ヒロシは逃げようとしたが、体が動かなかった。
人魚の美しい顔は、見る見る変化していき、直視できない恐ろしい怪獣になった。
そして、その口を大きく開けると、私に襲いかかった。
「うわー!!」
数分後、薄暗い浴槽の中で、ヒロシはミイラになっていた。
まもなく彼の家は出火して、全焼していった。
美しい夏の夜の海岸近くで、燃えながら倒壊していく家の中、浴槽の底が無くなり‥‥ミイラになったヒロシは、その下に広がる海中へと落ちていった。
――おわり――
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