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月明かり照らす
繋がれた手と手
絡み合う赤い糸の先
君と繋がっていたらと祈る
これが、愛なのだと知った
初めてなんだ
こんなに誰かを愛したのは
愛を知らなかった俺に
愛を教えてくれたのは 君だから
俺の名前呼ぶ声
ふわりと香る君の薫り
君の泣き顔は見たくない
君の笑顔をずっと見ていたい
愛してると囁いて
照れ笑いする君を
永久に守り続けたい
満月の夜 重なるふたつの影
無垢な寝顔の君を抱きしめ
ただひとつの願いを月に捧げる
願わくはずっと俺の隣で
君に微笑んでいてほしい
(full moon/UN-SWAYED)
*
12月31日の夜。年越し直前まで放送される生放送の音楽番組に出演したUN-SWAYEDは、大晦日だけのスペシャルメドレーを披露した。
メドレー曲はシングルとしてリリースされたヒット曲から選ばれるのが定石だろうが、スペシャルメドレーの2曲目はセカンドアルバム収録曲のラブソング〈full moon〉だった。
〈full moon〉は作詞を担当するボーカルのKAITOが友人カップルをモデルに詞を書いた曲だ。昨年発売のセカンドアルバムに収録されたこの曲は切ないギターの旋律と情感ある歌詞が心に刺さると話題になり、瞬く間にファンの間で人気曲となった。
アルバム発売後に化粧品のCMソングにも起用された影響で、〈full moon〉はアルバム曲でありながらファン以外の一般大衆の認知度も高い。
音楽番組が特集したラブソング人気ランキングでは、カラオケで彼氏に歌って欲しい歌ナンバーワンの称号を獲得している。
莉子は大晦日の風物詩であるこの音楽番組を純の自宅のテレビで鑑賞していた。番組ではJ-POPから演歌、アニメソングに至るまで、様々な曲が歌唱披露されている。
デビュー3年目のUN-SWAYEDは昨年12月の武道館ライブまでは素顔を非公開としていた事情もあり、今年から精力的に音楽番組へ出演している。
大晦日の音楽番組への出演も今年が初めてとなる。
「今日は静かだね」
「えっ?」
「いつもはテレビにUN-SWAYEDが出ると騒ぐだろ。SEIYAカッコイイーって」
純が裏声で莉子の真似をする。まったく似ていない……と不満げに純を睨んだ彼女はテレビに目を向けた。
すでにUN-SWAYEDの出番は終わり、ステージでは次の歌手が歌い出していた。
「SEIYAは今日も色気ダダ漏れで、セクシーボイスの歌は超絶上手くて、黒でまとめたスーツ姿が最高にかっこよかったです」
「ふーん、そう」
「妬いてるでしょ?」
「別に。芸能人に妬いても仕方ない」
小声でそう呟いてそっぽを向く純の頬を莉子は笑って突っついた。芸能人に妬いても……と口では言いつつ、彼は明らかに拗ねている。
前は莉子の前でも必死で〈大人〉を演じていた彼が、最近はこうして時たま、子供っぽい顔も見せてくれるようになった。
本人がかっこ悪いと思う姿も、莉子には愛おしいから。どんどん見せて欲しい。
けれどハマればハマるほど、この恋から抜け出せなくなる。恋の強制終了のカウントダウンは怖くてまだ刻めない。
年越しそばを食べ終えた空の食器やゴミをキッキンで片付けている間、彼女は先ほど聴いた〈full moon〉の歌詞を声を出さずに口ずさんだ。
KAITOは今夜のメドレーでは2番を歌唱していた。2番の歌詞に登場する赤い糸の先、そのワードが莉子の意識を絡め取る。
(私の赤い糸の先は純さんだといいなって思っているんだけど、純さんは違うのかな……)
うつむく顔を上げると、純がキッチンと洋間を隔てる扉にもたれかかって立っていた。
じっと莉子を見つめる彼の眼差しは優しくて、物悲しい。
「どうしたの?」
「莉子の赤い糸の先にいるのは、どんな男なんだろうね」
そんなに哀しい瞳でそんなに優しく笑わないで?
離れられなくなるから、離せなくなるから。
「……それはプロポーズのつもり?」
「できるものなら、してるかな」
もう12月? まだ12月?
あとどのくらい一緒に居られる?
ふたりで立つには狭いキッチンでキスをした。何度か唇を重ねた直後、純の大きくて温かな手が莉子の肌に触れた。
太ももを撫でていた手がそのうちワンピースの裾をまくり上げて、内側に侵入してくる。
待ってと言っても待ってはくれなくて、彼はどんどんその先に進んだ。
「もうUN-SWAYEDの出番はない?」
「たぶん……。この後は渋谷のライブハウスでカウントダウンライブらしいから、もう移動するんじゃないかな」
「莉子も、東京に行けば来年のカウントダウンはUN-SWAYEDと一緒にできるな」
それは来年の大晦日にふたりは一緒にはいないだろうと、暗に含ませた言葉だ。認めたくない現実が莉子の涙腺を潤ませた。
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