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No.1 出逢い
「エントリーナンバー一番、明石中学校…」
聞き取れるのもやっとなほどエコーがかかったアナウンスで、私たちの学校名と課題曲が読まれると同時に、白く輝くステージへと歩いた。
目が慣れるまでに少しかかったが、熱意を持った照明の元に立ち、冷えたマウスピースを口に当てた。
何ヶ月も練習に打ち込んだ曲。
部員全員で何度も立ち向かった曲。
ありったけの想いをぶつける5分間、結果は去年と同じ優良賞。私の中学3年間の青春が終わった。
「今年も金賞は東かー。もうお決まりだね」
フルート担当の亜利涼が肩をポンと叩いた。亜利涼とは同じ高校への進学が決まっている。小学生の頃からの親友だ。
「3年も連続しちゃうと流石に望まなくなるよね。ま、3年間お疲れ様。」
ため息まじりに返事をしながら、楽器ケースにトランペットをしまうと、あっさりした表情の後輩達の提案で、部員全員で写真を撮ることになった。
足ががっしりしたカメラスタンドにカメラを置き、みんなで一斉にピースサインを作る。
「3、2、1!…あっ!」
シャッターの音と同時に、カメラと私たちの間を通った1人の男性。
「すみませんでした!」
一言言うと、そそくさと自転車で走り去って行ってしまった。
一瞬の出来事だったが、私は彼の瞳の光を見た。
それは照り輝く太陽より、ステージのライトよりも遥かに眩しい輝きで、あっという間に私の心を奪った。
その後、再度合図があり写真を撮ったが、あまりの突然の出逢いに表情は上の空だった。
それからというものの、卒業式までの数ヶ月はとても味気ないものになった。今までと何一つ変わらない景色なはずなのに、どこか物足りないと感じる。
ーーーーまた、偶然出逢えたら…
そんな想いが芽生えてからは、すっかり勉強も手につかず、たった一瞬見た彼の面影を思い出しては、胸を締め付ける想いを膨らませていた。
コンクール会場はあいにく学校から3つも隣の街で、会えるはずもないと、自分に言い聞かせながら高鳴る想いを抑えた。
私がこの感情を「恋」だと気づくのには、そんなに時間はかからなかった。
白がよく似合う、背の高い好青年。
少し高い声。
名前も性格もわからないのに、こんなにも惹かれる理由が私自身にもわからなかった。
会えないまま時は流れ、私は中学を卒業した。
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