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「3年B組、羽田美雪」
少し崩れた文字で書いてある私の名前。
受験生として一年連れ去った教科書達。
雪のように美しく生まれたのが私の名前の由来らしいけど、期待を裏切るように地黒に育った私は一年中日焼けしたような肌で、それがコンプレックスでもあった。
もうすぐ花のJKブランドを背負うからには、少しでも色白を目指して可愛くなりたい、と乙女心は花びらのようにゆらゆらと揺れていた。
春休みはあっという間に終わる。
卒業から入学のシーンへの移り変わりはあまりにも早すぎて、揃え終わってない文房具、イメチェンに失敗してきごちないショートヘア、一気に短くなったスカート…全てが落ち着かなかった。
唯一の救いとして、同じクラスに亜利涼がいたことで、少しずつ新しい環境に期待し始めていた。
"第58回 入学式"
赤と白のペーパーフラワーが付いた白い看板を横目に、これから始まる新しい青春の場へ、一歩、また一歩と進んでいく。沢山の車、溢れる人々、舞う桜の花びら。まさに春という場面を切り取ったような景色が広がっていた。
ヒュウッ…
背中にぶつかった肌寒い風。
不安な気持ちを察するような、そんな風だった。
「もう戻れないよ」
そう言われているような、そんなようにも思えた。とても不思議な感覚のまま、全校生徒が集う体育館へ向かった。
昔から式典は苦手で、必ず寝てしまう。妙な静かさと、温かい陽射しが入る空間はうたた寝するには相応しすぎて、開始3分ほどでウトウトしていた。
ーこの声を聞くまでは。
「1年生の数学を担当します、早稲田伶です。宜しくお願い致します。」
心の奥で眠っていた、高鳴りを覚えた、あの声。
壇上に目をやると、きちっとしたスーツに身を纏ったあの日の彼が立っていた。
高校生になって1日目、私と彼は先生と生徒で再会した。
平凡だった私の日常は、この日から想像もできない程に変化していくことになる。
「早稲田…伶…」
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