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話の内容から、ターゲットは亜利涼だということがわかった。
何の根拠もなく、そんなことをするなんて許せない…悔しいと思いながらも、相手は理奈を含め4人、とても1人じゃ対抗できる状況ではなく、気づかれないままそのまま家路へと戻った。
しばらく歩いても、悪気じみた甲高い笑い声は聞こえ続けた。
家に帰っても、母に打ち明けることはできず、楽しみだった晩御飯も少し口に入れたぐらいで済ませてしまった。高校生活に緊張している、と嘘をついた。
翌日
まだ少し残った桜が散る道の中、バス停に亜利涼がいた。
「あ、美雪!おはよう!」
いつも通りの挨拶をくれる。今日の出来事もあってかうまく笑えなかった。とりあえず、おはよう、と返事をし、数分後にきたバスに乗り、私達は学校へ向かった。
様々な声が飛び交う中、教室へ入ると昨日と何一つ変わらない空気感だったが、ひとつだけ違うのは後ろの席にいる理奈への意識だった。いつもよりも視線が痛いのは気のせいだと信じたかった。
2日目の高校生活。焦りとは裏腹に、予定通りに授業が始まる。帰宅後からの時間があまりにも濃すぎて忘れかけていたが、今日は数学がある日だ。早稲田に会える。
あの一瞬の出来事を私は昨日のことのように思い出せるけど、早稲田はどうなんだろう。少し胸を躍らせながらチャイムを待った。
「起立」
チャイムと同時に号令がかかり、生徒と生徒の間に見えた、スーツ姿。その姿を一目見ただけでドキッとする。初めて出会った日は普段着だったからか、スーツ姿の早稲田は「先生」という現実を突きつけている気がして、複雑な気持ちになった。
と、色々考えていると着席する流れに乗り遅れそうになり、慌てて席に着く。
「数学担当の早稲田です。苦手意識が生まれがちな教科ですが、しっかり向き合っていきましょう。宜しくお願いします。」
その通り。私は数学が苦手だ。計算も面倒くさくて、疲れる。でも、その担任がこの人なら、少しでも頑張れるかもしれない。
「早速だが、実力試しで抜き打ちテストやるぞー」
前言撤回。最悪だ。
よりによって気まずい状況で理奈と関わるタイミングができてしまうなんて…
テストも嫌だけど、ダブルパンチを食らったような気分だ。
考え事をしているうちにテスト用紙が回ってくる。流れ作業で、受け取ったのを後ろに回す。
「ありがと。テストやだねぇ」
私ですが声をかけられたもんだから、思わずビクッとしてしまった。昨日と全く変わらない表情が、余計に怖かった。
「う、うん!頑張ろうね」
うまく言えていたのかもわからないような混乱状態だった。今できる精一杯の自然なフリをして、前を向いた。
早稲田の合図でクラス全員が神を裏返す音がする。
それなりに真面目に授業を受けてきたはずなのに、問題のほとんどがわからなくて全く手が動かない。見回りで教室を歩く早稲田との距離が縮まるたびに早くなる鼓動がうるさくて、こんなにも静まり返ったこの場所全体に聞こえてしまうんじゃないかという不安で頭は埋め尽くされていた。
もっと近くで顔を見たい。
だけど、心がはち切れてしまいそうで。
今までにない感情が、溢れ出していた。
チャイムが鳴り、解答用紙が回収された。自分なりに頑張ってとりあえず解答欄全てに記入はした。自信はない。
「今日解いてもらったものは、中学までの基礎です。ちゃんと復習しておくように!これができてないとこれからの授業はきついぞー。次の授業で返却します。」
早稲田がそう言うと、号令がかかり、初めての数学授業は終わった。
覚えてくれているか、などと気にしていられる余裕もなく、切ない気持ちだけが残ってしまった。問題を解いてる間、私の横を2回通ったけど、特に何もなく只々時間が過ぎた。まぁ、何もなくて当然なんだけど。
「美雪、売店行こう!」
少し離れた先から、亜利涼が声をかけてきた。そういえば昼休憩の時間だ。カバンから財布を取り出し、一階にある売店へと一緒に向かった。
初めての売店。中学にはなかった景色がとても新鮮味を帯びて、そこに広がっていた。広くて大きくて、たくさんの生徒達で賑わっている。
「なんか、ドラマとか映画で見た景色だね」
亜利涼が嬉しそうに言うと、こっちこっち、と手招きされ1つずつの焼きそばパンと紙パックのジュースを買った。とても、高校生らしい昼食だ。いろんな会話が飛び交う中、私たちは中庭のベンチに座った。
「亜利涼、テストどうだった?」
問いかけると、うーん、と少し考えた後、まぁまぁかなと返事が返ってきた。普段何一つ変わらない会話をしているだけなのに、昨日のコンビニでの出来事が頭にフラッシュバックして、時折ボーッとしてしまう。
「って…ねぇ、大丈夫?」
気づかれてしまったみたいだ。
「今日やっぱり美雪おかしいよ。なんかあったでしょ?」
長年の付き合いの目には、誤魔化しが効かなかったらしい。だけど、本人に打ち明けるのもどうかと思ってしまい、適当にはぐらかした。
ごめんね、亜利涼。
でも大丈夫。
私が、亜利涼を守るから。
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