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No.3 変化
あの特別補習以来、私は『自主勉強ノート』なるものを作って、早稲田に毎朝提出するようになった。
ちょうど授業でやっている場所から、少し先まで自主的に問題を解いて採点してもらう。特別補習ができない分、毎日このノートで繋がっていられることに嬉しさを感じて、それに比例するかのように、点数も上がっていった。
「最近すごいじゃん美雪!」
声をかけてきたのは理奈だった。久しぶりに話すのもあってか、やはり呼び捨てに慣れないなぁと違和感を感じる。数学の話から、最近できた友達との話、いろいろな話をしていると、途中で話題が切り替わる。
「そういえば来月合宿あるね。班決め、一緒のグループになろうよ。ちょうど4人で。」
そういえば、来月は親睦を深めての林間合宿がある。キャンプをしたりみんなでご飯を作ったりするんだっけ。虫刺されと日焼けは嫌だなぁと考えていると、4人というところが引っかかった。
「4人?」
「うん。私と美雪と、希と美保!最近仲良くなった2人なんだけど、絶対美雪も仲良くなれる子だから!ね、いいでしょ?」
瞳の奥に悪意を感じた。外見とは裏腹にやることが汚い。もちろん、話を振ってきた時点である程度察していたが、私が本当の目的を知っていることにはまだ気づいていないみたいだ。どこまで本気なのかはわからないが、決めたんだ。私が亜利涼を守るって。
「ごめん前田さん、私、亜利涼ともう約束してて…」
「えー!?理奈のお願い断られたんだけどー!ありえない!チョーショック!!!」
大声で騒ぎ始める理奈。慌てて、人差し指を立てたが、全く治る様子はない。
「そっか。理奈よりも涼宮さんのほうが大事なんだもんね。いいよ。もう1人、他の人探すから!もう、あんたなんか友達じゃない」
血相を変えて、私の前から立ち去っていくと、教室中がザワザワとどよめいた。なんの騒ぎだ、と他のクラスの生徒も何人か覗きにきていた。とてもその場に居られる気になれず、私は気づいたら屋上へと走り出していた。
バタンッ
少し重たい扉を開けると、少し曇った空で白く照らされた屋上の景色が広がっていた。所々、黒くかびていて少々場所に迷いながらも、住宅街が見下ろせるところに座った。自分が普段見ているより遥かに上から見る景色。ここからしか見えない景色。
少しここで風を浴びて、落ち着いたら教室に戻ろうと深呼吸した。相手が相手だったのか、少しも傷付いてはいなかった。
一方、教室では理奈が動いていた。
「アイツ、チョーむかつく。仲間に入れてやろうと思ったのに。ちょうどいいしターゲット変更で主人公ちゃん仲間に入れようよ。」
「ウケる、いいじゃん。やろやろ。」
「賛成ー!」
ギャハハと笑い狂う3人の笑い声は廊下中にも響いていた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。これから授業が始まる。次はなんの教科だったっけ。忘れちゃったなぁおうとうとし始めると、何分もしないうちに眠ってしまった。
暑すぎず寒すぎない4月の終わりの気候。
一年の中で一番好きかもしれない。
「…い。…い!おい!起きろ!」
「!?!?!?」
驚くと同時に起き上がると、先輩らしき人が目の前にいた。
「早まるな!まだ早い!」
ーーー早まるな?
場所的に勘違いされたようだ。胸元を見ると、『3年 春森』と書かれている名札が付けてあった。
「すみません、私早まったんじゃなくてただのサボりです」
私の言葉を聞くと、ホッとしたのか深く大きいため息をつきながら胸を撫で下ろしていた。
「よかった。屋上に来た途端、人が倒れてるもんだからびっくりしたよ」
ウトウトしているうちに寝転がって眠っていたみたいだ。
「ちなみに…俺、見てないからな…お前のパンツなんて!そ、その!ドア開けたら風でスカートが捲れてて…その…あの…み、見てないからな!ピンクの…ぶっ」
途中で聞くに耐えず、初対面にも関わらずビンタしてしまった。いや、向こうと初対面にしては失礼すぎるのでおあいこにしたい。
「色まで見てるじゃないですか」
「だから…その…見ようとして見たんじゃなくて見え…ぶっ」
2度目のビンタ。
「わかったんで、もう説明しないでいいです。すみません、初対面なのに2度もぶって」
「…オヤジにも」
「そういうのいいです」
「はい」
ノリがいいのか、こういう性格なのか。
パンツ見られたのは不覚だけど、面白い人と出逢った。初対面の後輩に2度もビンタされたのにちっとも嫌悪せず、春森と私はそこからしばらく話をした。
学校には自転車だ通学していること、サッカー部ということ、いろいろな話をしてくれた。
私も少、中と一緒の友達、すなわち亜利涼のことを話したり、サボった理由など色々話し、打ち解けた。
「そうか、1年の頃って絶対そういうのあるよな。やることがマジで子供。くだらない。美雪ちゃんは気にしなくていいよ。堂々としてたら大丈夫。」
パンツ見られてビンタ二回した人に名前ちゃん付で呼ばれてる。でも、不思議と嫌な気持ちはない。
「ありがとうございます。ちょっとタチ悪い3人組ですが…友達もいるんでなんとか頑張ります。あ、そういえば今何時ですか?」
「もうすぐ昼休憩の時間ぐらいかな?そろそろお腹も減ってきたしな」
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