No.3 変化

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ということは春森もサボりか…。 勝手な決めつけだけど、頭悪そう…。 思ったことを察するかのように、ん?という顔をされたので焦って首を横にブンブンと振った。 今日の午後は確か、合宿の班決めなどの話し合いがあった気がする。ああいうことがあった後で正直気乗りはしないけど、合宿自体は元々好きというのもあって少しワクワクしていた。 「心配かけてすみませんでした!では」 もう少しゆっくりしていくよと春森に手を振り、財布をとりに教室へ戻る。今日は何を食べようか、と期待を膨らませて後ろ側からそっと中を覗く。どうやら昼休憩に入ったのもあって数人しか残っていなかった。そして、そこには亜利涼の姿もなかった。 ガヤガヤと賑わう売店、あまりお腹が減らなかったため、今日はクリームパンを買った。お供は紙パック牛乳。亜利涼の姿が見えないまま、2人でよく食べに来ていた中庭へ向かっていた。 その時だった。 「ーー!?」 見てしまった。理奈率いる3人組と一緒に笑う亜利涼の姿を。一瞬何が起こっているのか理解ができず、相手側から見えない位置に座った。 何故、あの3人と一緒に? サボっていたほんの数時間の間に何があったのか。考えても考えても信じたくはない気持ちが勝って、訳がわからなかった。 「いやー私誤解してたよ!亜利涼ちょーワルじゃんー」 「私達以上だよ!最強!」 「う…うん」 「超心強いメンバーできたね。これでいくらでも潰す選択肢できたよ。楽しくなりそうだね」 ゾッとする会話。この会話の中で弱い相槌を打ちながらも、一言も庇うような言葉を口にしない亜利涼に、とてもショックを受けた。 亜利涼、どうして?こんなの、ひどすぎる。 ずっと信じてきた友達を奪われ、思わず涙が流れた。一口も食べられなかったクリームパンと牛乳は教室に戻るまでのゴミ箱に捨てた。 時間は無常にも合宿についての話し合いに流れ着いた。実行委員がテキパキと仕切る中、私はほとんど話したことのない女子3人とグループを組むことになった。もちろん、亜利涼は理奈のグループに入った。 配られたプリントに目を通すと、1年の担任教師の他に、補助として早稲田が同行することがわかり、少し心が救われた気がした。合宿の大まかな内容としては、料理、キャンプファイヤー、オリエンテーションというものだった。新しく友達になるチャンスだと思って、グループの子達と精一杯楽しもうと決意した。 高校入って1発目の行事。 楽しまなくちゃ、と自分を奮い立たせることで、裏切られた悲しみを紛らわせる気がした。 亜利涼が理奈たちと組んでから、学校での環境は大きく変わった。合宿のグループを組んだ子達も、他の女子たちもハブられることを恐れて、私に近づこうとしなかった。 気づけば移動教室も、昼休憩も、1人の時間が増えていた。 ーーーなんでこうなったんだろう。 考えてもキリがなかった。理由なんて、ないのだから。 最近、頬がこけた気がする。まともにご飯も食べられなくなって、紙パックジュースばかりで昼休憩を過ごしていた。 中庭にはいつも理奈たちがいたので、屋上はほとんど貸切状態で落ち着く、私の居場所になっていた。ハーッと大きくため息を吐いて、また大きく息を吸って、広い空を見上げる。こうすると悩んでいることがちっぽけに思えて、私はまだ生きていると実感できた。 まだまだやりたいことがたくさんある。 今躓くのは勿体無い。 「よっ」 「今日は風弱いんでパンツ見れませんよー残念でしたねー」 「パンツ?」 ハッとなって振り返ると、早稲田が立っていた。条件反射で言ってしまったけど、今ものすごく誤解を生むような発言をした気がする。 「何、お前ここでパンツでも売ってんの?」 「誤解です…!!それにはちょっと事情がありまして…」 「どんなやましい事情なんだろうね?」 「あのっ違いますから!」 思いの外慌てた為か、ブフォッとあの人同じように笑ってくれた。はいはい。聞こうか、とゆっくり歩み寄り、私の隣に座った。ふんわりと香るスーツの匂いがとても心地よかった。 「そうか、まぁ要するにサボってたらバチが当たってピンクのパンツを見られたと。その後打ち解けたと。なんか無茶苦茶だけど、結果良かったな。」 「色、言わなくていいですから…」 「ピンクピンク。羽田のパンツはピンクー」 「ちょ…!!」 2人してブフォッと笑いながら、柔らかい風を浴びた。こんなふうに笑ったのは久しぶり。どんなに落ち込んでいても、こんな簡単に笑顔になれるなんて、先生はすごいな。 来月の合宿もこれからの授業も、頑張れそうな気持ちにさせてくれる。 「まぁ、思春期なんて誰でも悩む時期だし、辛いことあったら遠慮なく相談しに来いよ。担任でも、一年の先生でも、俺でも大丈夫だから。じゃ、俺はお先に。」 頭をポンポンと撫で、ニコッと微笑むと立ち上がって屋上から出ていく早稲田。 天気の良さも相まって、早稲田の笑顔が眩しくて、しょうがなかった。うっすらとスーツに滲んだ汗、広い背中。 先生の背中を見るたび、知るたびに、私の想いはどんどん大きくなっていった。なんで、先生なんだろう。なんで、生徒なんだろう。 胸が締め付けられた。
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