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3.シロブチ犬カフェ
3.シロブチ犬カフェ
「そう言えば、どうして俺って分かったの?顔写真だしたことないのに」
卓とは海斗に問いかけた。二人はベンチに座りながら話をしていた。
「それは、なんとなくかな…違う人なら違う人でまた探そうかなと思って。とりあえず話しかけてみようと思ってさ。そしたら卓だった」
微笑みながら、話す海斗に少し恥ずかしくなって卓は目を背けた。
「さてと、それじゃあ行きますか!」
そう言いながら立ち上がる海斗。それに合わせて卓も立ち上がった。
「そうですね。どこ行きます?」
ぎこちない二人はまだ敬語とタメ語が入り混じっていた。
「とりあえず…ハチ公行ってみますか!卓さん本当は一度みたかったでしょ?」
海斗の言葉にこくりと頷く卓。
「それじゃあ行きましょう。人が多いからしっかりついてきてね」
そう言いながら、海斗が前を歩いて後ろを歩く卓。
ついていくのがやっとな卓に、そっと手を差し伸べる海斗。
「大丈夫ですか?放れるとまた迷子になっちゃいますよ」
うわぁ…こういうこと平気でいえる男…すげぇな…
恥ずかしいけどこのままだとまじで迷子になっちゃうし
卓は、手をしっかり握って後ろを歩いた。
卓は手を握りながら、周りの景色をきょろきょろと見渡しながら歩いていた。
うわっ!モニターでかっ!ってかビル多っ!ここ日本!?
物珍しさにきょろきょろと見る姿がまるで遊園地に来た子供のように見えて、卓の無邪気な姿に胸がざわついていた。
「着いた!ここが、ハチ公前!」
「いやっ!ちっさ!しかも、全然目立たない!なんならここ通ったよ!」
ぽつりとあるハチ公にがっかりする卓。
「なんだ?大仏でも想像してたのか?」
「まぁ大仏は想像してなかったけど、もっと目立つ所にあるとは思ってたよ」
「卓ってかわいいなぁ!」
「やめろ・・・そういうの…恥ずかしい…」
初対面でこの男は恥ずかしげもなくそんな言葉を・・・という気持ちが半分。
でも嫌じゃないんだよなぁ。すっと心に入ってくる安心感。
卓はそんなことを思いながら、海斗をもう一度見た。
「えっと・・・それでどこ行く?」
恥ずかしくなり目を背けながら言う卓。
「そうだなぁ…じゃあさ!卓が好きなシロブチ犬カフェいってみよっ」
「えっ!いってみたい!めっちゃ興味あったんだ!」
卓は嬉しそうに喜ぶ顔をみて、にやけそうな顔を必死に堪える海斗。
「調べてみたら歩いて10分くらいみたいだからそこまで歩こうか」
「俺・・・東京全く分からないから頼みます…」
「了解!」
こうして二人は、シロブチ犬カフェに向かって歩き始めた。
「そういえば、そのシャツ。シロブチ犬じゃない?めっちゃ可愛いんだけど」
歩きながら海斗は卓のシャツを見て言った。
「そうなんだよ!受注生産の限定Tシャツで予約して買った。海斗のその服は、ソクミミじゃない?」
ソクミミとは、黄色い球に巨大な耳を生やした謎の生き物。モデルはミミクソらしいが、キュートな顔が今女性達に人気を博している。
「そう!そうなんだよ!ソクミミが今の推しなんだよね!」
「じゃあ次の行先は決まりだね!」
「卓!わかってるねぇ!ソクミミ限定のショップ“ソクミミショップ”今月までだからこれは外せないんだ」
2人の会話は趣味の話で会話が弾んでいきあっという間にシロブチ犬カフェに到着した。
うわっ!かわっいい!!シロブチだらけ!
ビルの中にあるテナントの一角で、自分の推し一色になるカフェに心の中が荒れる卓。扉の所で興奮ぎみになっているのが海斗にも伝わってきた。
「写真は良いんですか?」
「はっ・・・」
頭の中で騒ぎすぎて一瞬我を失っていた卓。ようやく正気にもどり、壁や扉の装飾をかたっぱしからとる卓。
「OK!それじゃあいきましょう…」
「分かりました」
「あっ…ちょっと待って…緊張してきた」
コラボカフェでこれだけ緊張する男も珍しいなっ…卓さん。見てて飽きないなぁ…
海斗は、卓の姿を見ながらそんなことを思っていた。
「よしっ!行きましょう!」
卓は、意を決して扉の向こうへと飛び込んだ。
やばいやばいやばい!こりゃあやばいよ!かわいいい!
扉の向こうは推しの天国で、いたるところにシロブチの装飾が施されていた。
「やばっ!可愛い!どうしよう!めっちゃ可愛い!昇天する」
「シロブチだらけ!天井にもほら!」
「うわっ!ほんとだ!可愛い!!」
「地面も足跡ついてる!めっちゃ可愛い!」
大の大人の男が二人ではしゃいでいると、店員がやってきた。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「2名です」
海斗が店員と話している間も、きょろきょろと辺りを見回して、目に焼き付ける卓。
「卓。こっちだって、行こう」
海斗の言葉に卓は周りを見渡しながら歩き回る。
「こちらでございます」
席まで案内されると、テーブルから椅子から全てがシロブチ犬に装飾されていて、椅子に引いてある座布団までもがシロブチ犬の顔になっていた。
「決めた・・・俺ここに住む」
「いや、住めないから!座って」
微笑みながら席に座るとメニューが用意されていた。
「えっ…全部可愛い!食えないけど全部可愛い…」
「確かに!じゃあ俺と卓で違うの食べる?そしたら色んなの食べれるよ」
「おっ!それいい!そしたら俺は…って高っ!」
「コラボカフェあるあるだね…通常より値段高いんだよな・・・」
「なるほど、この値段は食べ物代+可愛さ代ってことか」
「可愛さ代って…」
「でも、おかしいなぁ・・・可愛さ代足したらもっと高いはず!そう考えたら安い!」
卓ってめっちゃポジティブ・・・
「あっ!海斗さん!このドリンクコースターついてくるみたいっすよ!8種類!?俺に8杯飲めと…」
「落ち着いて。これランダムだから8杯じゃすまないよ」
「あっ…そうか!」
「ここは一杯ずつで我慢しましょ!」
「そっか…そうっすね!よし!俺決まりました!」
「えっ・・・もうですか?」
卓の頭の中どうなってるんだ?さっきまで可愛さ代とか言って全然選んでなかったのに。
一体いつメニューを選んでいたのか…
「それじゃあ俺はこれとこのドリンクにします!卓さんはどれにしました?」
「俺はこれとこのドリンクにしました。被らなかったですね!」
2人は、早速店員を呼んで注文をすると、卓は急に立ち上がり始めた。
「どうしました?」
「店内写真撮ってきます!シロブチめっちゃ撮ってきます!」
「あぁ…いってらっしゃい」
卓は席を外して、店内の写真をひたすらに撮り続けた。
卓さん・・・SNSで話していた通りの人だったなぁ。
いやっ…それよりももっともっと・・・
卓は、一通り写真を撮り終わると、机に戻ってきた。
「海斗さん!やばいっす!ここのトイレの中もめっちゃ可愛かったです!最高です!女子トイレも入りたい…」
「それはやめましょ!普通に捕まります」
「冗談ですよ」
いや、この人ならやりかねない
そう思う海斗であった。
すると、店員が料理を運んで机に来た。
「おまたせしました。こちらとこちらになります。ドリンクお持ちの際はまたお声かけください」
ささっと手際よく料理を置いて去っていく店員。
「やばっ!めっちゃ可愛い!」
卓はそう言いながら写真を撮り始めた。
「俺も写真撮ろう!」
海斗は写真を撮り始めた。
「そっちのも撮らせてください!」
「どうぞどうぞ」
海斗の料理も写真を撮り、席についた。
「いやぁ、これ可愛くて食べられないなぁ…ねぇ卓?」
「んっ・・・」
海斗は卓の方を見ると、可愛く飾れたシロブチ料理の真ん中をスプーンに縦に入れながら食べている卓。
「早く、食べないと冷めちゃいますよ」
いや、もう食ってる!ここはちょっと鑑賞タイムとか挟む感じじゃないのか。なんか卓さんって…
海斗は、フフッと笑いながら、スプーンでシロブチ犬料理の端から食べ始めた。
もくもく食べ進め、皿が綺麗になくなり、二人はドリンクを頼んだ。
「卓ってなんか変わってるよね」
海斗は卓を見ながら、言うと、卓は頭をかきながら
「いやぁ、よく言われます。変わり者って」
「あっ…気にしてたらゴメンなさい。でも、俺は卓のそういう所好きだなぁと思って」
「・・・そう言ってくれたの海斗さん入れて二人目です。」
卓はそういうと、水をごくりと飲み干した。
「俺には、遼っていう親友がいて、そいつが初めて変わり者のところ褒めてくれたんです。今までお前は変わり者だって言われて、仲間外れにされることも多かったんです。でも遼だけは違くて・・・本当に良いやつなんだ」
「へぇ…その遼さんの話もっと聞かせてよ」
「遼の話かぁ…何を話そうかなぁ」
物思いにふける卓の表情をみながら、海斗の心にモヤモヤがうっすらとちらついた。
「おまたせしました!ドリンクがこちらになります。そしてコースターがこちらになります」
銀色の袋に封がされ中身が見えないコースターが二つ机に置かれた。
「おっ…来た来た・・・この瞬間がたまらないんだよなぁ」
「分かる!分かる!それじゃあせいのっで開けますか」
「おっ良いね!」
2人は、袋をやぶいた。
「せーのっ!」
2人の掛け声とともに、開けた封の中身を確認した。
一つは、お昼寝シロブチ犬。もう一つは、骨咥えシロブチ犬の2種類だった。
「可愛い!」
「ねっ!じゃあこれ俺から今日会ってくれたお礼!」
「えっ!良いの!?」
「もちろん。俺もシロブチ犬好きだけど、卓には敵わないし」
「ありがとう!あっ!じゃあ、ソクミミショップ行ったら、今度は俺が何かプレゼントする」
「おっ!じゃあ期待してます!」
「あれ?そういえば、何話してましたっけ?」
「・・・忘れちゃった。とりあえず飲みながら思い出しましょ」
「そうっすね!」
2人はそう言いながら飲み物を飲み始めた。
「あっ・・・そういえば海斗の苗字聞いてなかった」
「あぁ山田・・・山田海斗。山田って普通だろ?あんまり苗字気に入ってないんだよな」
「普通が良いよ。普通が一番!俺は普通になれなかったんだから…」
「そうか…そう考えると、27歳にもなって未だに可愛いキャラクターにハマってるんだもん。俺も卓と同じ普通じゃないってことになるよなぁ」
「普通ってなんだろうなぁ…」
「んー…分からないけど、俺たち普通じゃなかったから出会えたんだよね。そう考えたら、卓が普通じゃなくて俺は良かったかな」
「また、そんな恥ずかしげもなくそんな臭いセリフを・・・」
「良いじゃん!思ったことはちゃんと口にしないとさ」
海斗の言葉に卓はどこか救われたような感覚になった。今まで、遼には自分の変わり者の部分を知ってはもらっていても、一緒に共有することは出来なかった。それが、変わり者である自分を肯定してくれてそれを共有してくれる初めての友達に出会えたのだ。
この瞬間、卓にとって海斗は友達とはまた別の存在・・・同志になったのだった。
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