目覚めたのは、夏の夜。 ~光の勇者と闇の女王~

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 ――親愛なるハレットへ  あなたがこの手紙を読んでいるということは、わたしは無事あなたにとどめを刺されたのでしょうね。優しいあなたのことだから、なるべく苦しまないように殺してくれたのだと信じています。  その瞬間のために、わたしは闇魔法を極めてきました。  吟遊詩人たちはこぞって、史上最悪の魔王を偉大なる光の勇者が討ち取り、世界に平和がもたらされたと歌い上げることでしょう。「勇者の傍らには聖女が微笑んでいた」と添えて……。  それは、わたしにとって最期の希望でもあります。  聖剣に選ばれたあなたが辺境の村から王都へと旅立ったときのことは、今でもはっきりと覚えています。  立っているだけで汗が滲むような、とても蒸し暑い夜のことでした。  あなたの武運を願って村じゅうの人々が集まり、夜通し炎を燃やし、ひたすら踊り狂いました。先にも後にもない、盛大な祭事でした。  星々よりも明るく燃え盛る炎を眺めながら、あなたは誓ってくれましたね。勇者となって、わたしを迎えに来てくれると。  わたしたちが幼なじみという関係から少しだけ進展した瞬間でした。  そっと触れてきたあなたの手がわずかに汗ばんでいたのは、暑かったからか、照れていたからか、どちらだったのでしょう。  一緒に飲んだサイダーはぬるくなっていましたが、とても甘くて美味しく感じました。
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