この道なんて消えればいいのに。

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真夜中の交差点には、全く車が通る様子もなく、人の姿も見られない。信号機の赤色が怪しく点滅し、そこに虫が群がっていた。 平井啓介はあくびを噛み殺しながら、腕時計を見る。時計の針は一時五十分を指していた。なぜこんな時間にこんなところに来ないといけないのかという怒りが、眠気の合間に押し寄せてくる。 ここは須賀原橋交差点と呼ばれる場所だ。日本で一番道路が交差しているという、知る人ぞ知る有名スポットでもある。それではなぜ平井がこんな時間にこんなところにいるのかと言うと、ある噂話を確かめるためだった。その噂とは、深夜二時になれば道路が一つ減るというものだ。 平井は大学ではオカルトサークルに入っていた。単なる暇つぶしのような気持ちでサークルに入り、熱心に活動しているわけでもなかった。ところが、サークル内でこの噂が取りざたされた時に、彼にこの真偽を確かめてもらうというミッションが任されたのだ。その理由は、この交差点が平井の家から近いためだ。サークルのみんなからお願いされ、断ることもできず、今日この場に来たのだ。 平井は交差点の道路がいくつあるか数えようとするが、細い道が入り組んでいる場所もあり、すぐに分からなくなった。信号がいくつもあって、どこをどう進めばいいかも分からなくなってくる。もし車が運転できるようになっても絶対にこの交差点は来ないようにしよう、そう心に決める。 道を挟んで向こう側に、交番があった。頼りない電灯が交番の中を照らしていたが、警官の姿はなかった。 こんな時間にこんなところにいて怪しまれるのも嫌だ。証拠はつかめなかったけど、実際に足を運んだのだから、サークルのみんなも許してくれるだろう。写真だけ撮って家に帰ろうと決めた。 その時、平井の耳に、チョロチョロと水の音が聞こえてきた。周りを見渡すが、水が流れている様子はない。次第に音が大きくなってきて、まるですぐ近くに川があるかのように聞こえる。 平井はぞっとする。川があるのはここから一キロ以上先だ。川の流れる音が聞こえてくることなどないはずだ。 さらに、川の音に交じって、何か違う音が聞こえているのに気づいた。平井は耳をすます。それは、女性が泣いている声だった。もちろん、周りに女性などいない。まるで、頭の内側から、泣き声が響いているようだった。 平井はあまりのことに、体が震えだす。すぐにここから離れなければいけない。本能がそう叫んでいた。しかし、平井の目の前には、有り得ない光景があった。 交番がない。 道路を挟んで向こう側、先ほどまでそこには間違いなく交番があったはずだ。しかし、交番があったはずのその場所には、立派な木が一本、生えているだけだった。 なぜ、どうして、ありえない。 あまりのことに頭が混乱する。平井はふと、後ろを振り返る。彼の背後には、先ほどまで道路の向こう側にあったはずの交番があった。向こうにあったはずの交番が、なぜかすぐ後ろにある。平井はあの噂を思い出す。深夜二時、道路が一つ減る。 「ぎゃああああああああ」 平井は全力でその場から逃げ出した。
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