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「ルイトー、お待たせー」  その日の夕方五時、店の近くのファミレス前に立っていた累に、長いスカートを翻しながら走って近づくのは、今日の同伴の客だった。 「マリちゃん、おつかれー。そんな走んなくても逃げないよ」  累が笑うと、違うの、と息を切らせたマリが累を見上げる。 「一分でも多くルイトと居たいの!」 「いいよー。今日はオレ、マリちゃんのものだし」 「ありがとう、ルイト。でも、同伴ってファミレスなんかでいいの?」  累の腕に絡みついて、マリが聞く。それに累は笑顔で頷いた。 「えー、オレ、ここのハンバーグ好きだけどな」  累はそう言いながら、マリと共にファミレスへと入る。席に案内され向かい側に座ったマリは、でも、と少し不満そうな顔をした。 「ヒロと同伴した子、お寿司とかフレンチとか行ってるみたいだよ? ルイトだって、そういういいトコ同伴でもいいんだよ?」  ルイトはそのくらいの価値あるんだから、と言われ、累が笑う。 「オレは別に同伴で食わせてもらうほど貧乏じゃないしな。そんなとこで使う金があるなら、いっぱいオレに会いに来いよ。オレは寿司よりマリちゃんの笑顔の方が味わいたい」 「……ルイト……好き」  累の言葉に頬を赤く染めたマリが潤んだ目でこちらを見つめる。累はそれににっこりと微笑んだ。 「オレもマリちゃんのこと、大好きだよ」  そう言うとマリが嬉しそうな顔をする。累は客のこの顔が好きだった。自分に向ける蕩けたような表情は疑似恋愛の醍醐味だろう。客だって、こうやって楽しんだり喜んだりすることで日常から解放されてリフレッシュするのだから、まさにウィンウィンの関係だと思う。 「ホント、ルイトに会うと、ブラックな会社でも仕事頑張ろうって思うよ。わたし、ルイトのために仕事してるかも」 「無理はしてほしくないけど……マリちゃんがそう思えることが、オレも嬉しいよ」 「うん、ありがとう。ファミレスだけど、好きなもの食べてね」  どれにする? とマリがメニューを開く。累はそれに視線を落としてから、ちらりとマリを見やった。さっき走ってきた時は疲れた顔をしていたけれど、もうその影はない。 「ねえ、マリちゃん」 「ん?」 「オレ、この仕事天職だと思わない?」 「思う、思う! わたし、ルイトに会ってなかったら今頃この世にいないかもしれないよ」  仕事辛くて死んでたかも、とマリが笑う。 「えー、可愛い子一人救えたってすごくない? オレ、表彰されてもいいな」  累が言うと、マリは、うん、と頷く。 「じゃあ、なんで一番獲れないんだろ……」  累が呟くと、マリは少し眉を下げ、きっとね、と口を開いた。 「ルイトは優しすぎるんだよ。ヒロみたいに『女イコール金』って思えなきゃ一番は無理なのかも……でも、わたしは、二番でも優しいルイトが好きだよ」  今日はたくさんお酒入れるね、とマリが微笑む。累は、無理しなくていいよ、とマリの頭を撫でた。  優しすぎる、とマリは表現したが、櫂が言うには『ぬるい』らしい。櫂も元をたどればナンバーワンホストだ。きっと、宙也と似たような営業をしていたのだろう。  けれど累には宙也と同じことはできなかったし、したくなかった。 「ありがと、マリちゃん。あ、オレね、ハンバーグセット食べたい。イチゴパフェ付けてもいい?」 「いいよー。わたしも食べたい!」  累が明るく言うと、マリも笑顔を取り戻し、そう言った。  一番は獲りたい。けれどやっぱり宙也の真似はしたくない、と改めて思う累だった。
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