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 累がホールへ出て行こうとした、その時だった。後ろから頭を撫でられ、驚いて振り返る。そこには宙也が立っていた。 「ルイトはここで待ってろ」  それだけ言うと、宙也はホールへと歩き出した。 「掃除おつかれー。てか、そろそろ終えてくれないと、みんな帰れないよ」 「ヒロさん! すみません、今終えます!」  慌てたような声と片づけをする音が聞こえ、累はそっと顔を出した。二人の新人が慌てて道具をしまっている。 「てかさ、店の中で仲間の悪口はあまり言わない方がいいよ。誰が聞いてるか分かんないからね」 「……聞いてましたか?」  遠くて表情は見えないが、新人が少し気まずそうなのは分かる。宙也はそれに頷いていた。 「ルイトはね、努力してるんだよ。客の数なら俺より多いし、全員にきめ細かい営業してるから、リピート率が高いんだ。確かに一度に落とす金は多くないけど、それを数で補ってる。それはとても大変なことだよ」  宙也の言葉に新人はもちろん、累も驚いていた。自分のことを宙也がそんなふうに思っているなんて、知らなかったのだ。 「だからこそ、マネージャーと同等の采配が出来る。それはマネージャーも認めてるよ。俺よりルイトの方が上手く廻すって。俺は、そんなルイトを仲間として尊敬するし……それに可愛いと思う」  それまで真剣に宙也の話を聞いていた新人が、最後の言葉で首を傾げる。当然累もだった。ため息を吐いて累がホールに出る。 「ヒロさん、オレのこと褒めてくれるのはいいけど、最後のはいただけない」 「ルイト、さん……もしかして、聞いて……」  累の姿に新人二人の顔色が変わる。累はそれに首を傾げた。 「トイレの帰り。通りかかったらヒロさんがオレのことめっちゃ褒めてたから」  累が言うと、そうですか、とあからさまに安堵した新人に累は、そうだよ、と軽く返してから宙也を見やる。 「可愛いよ、ルイトは」 「なんですか、それ。オレ、その路線目指してないんですけど」 「まあまあ、可愛いだって立派な武器だろ? あ、それよりさ、この間、客からめちゃくちゃ美味しい日本酒貰ったんだよ。お礼にそれ飲ませてあげるから、やっぱりカレー作りに来ない?」  日本酒は累が一番好きな酒だ。けれど店では洋酒ばかりで飲めないので自分で買うしかない。美味しいと言われたら、それは飲んでみたかった。  さっきの言葉も嬉しかったのもあり、累は頷いた。 「……カレー作るだけですよ」 「もちろん。さ、スーパー寄って帰ろう!」  累の言葉に本当に嬉しそうに笑った宙也を見ながら累は、ちょろいな自分、と自嘲した。
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